年8回のイベントが市場構造を変える
米国株市場には、日本株市場には存在しない「定期的な震源地」があります。
FRB(連邦準備制度理事会)が開催するFOMC(連邦公開市場委員会)です。
年8回、およそ6〜8週間ごとに開催されるこの会合は、
- 政策金利の決定
- 経済見通しの更新
- FRB議長による記者会見
という形で、市場に対して構造的な影響を与え続けます。
FOMCは「金利を決める会議」であると同時に、
年8回の需給変動のリズムを生み出す
米国市場固有のシーズナリティの震源地です。
■ なぜFOMCが需給を動かすのか
FOMCが需給に影響する理由は、金利そのものだけではありません。
より本質的な理由は、
② 金融政策の方向性 → 景気期待の変化 → EPS成長期待の変化
③ FRB議長の発言 → 市場センチメントの急変 → マルチプルの変動
という3つの経路で、株式市場全体に影響が及ぶからです。
バリュエーション講座で整理した「割引率とPERの関係」を思い出すと、 FOMCの決定は割引率という最上流の変数を動かすイベントです。
上流が変わると、川下の株価はすべて影響を受けます。
■ FOMC前後の構造的な値動き
FOMCの開催前後には、構造的に繰り返されやすいパターンがあります。
FOMC前(1〜2週間):不確実性の高まり
会合の結果が分からない期間は、機関投資家がリスクポジションを縮小する傾向があります。
- ボラティリティ指数(VIX)が上昇しやすい
- 大きな方向感が出にくい「様子見」相場になりやすい
- グロース株など金利感応度の高い銘柄が売られやすい
FOMC当日:結果発表とアク抜け
政策金利の決定が発表される東京時間の翌朝(日本時間で翌3〜4時頃)は、 「不確実性の解消」によって方向感が出やすくなります。
結果が市場予想と一致した場合でも、 議長の記者会見での発言内容次第で 大きく動くことがあります。
予想通りの決定 + ハト派的発言 → 株価上昇
予想外の決定(サプライズ) → 大幅な変動
FOMC後(1〜2週間):センチメントの再調整
会合の結果を受けて、 市場全体が新しい金利環境・景気見通しに適応する期間です。
FRBのスタンスが「予想より引き締め寄り(タカ派)」だった場合、 グロース株のマルチプルが段階的に修正されることがあります。
■ 年間を通じた「重要FOMC」の集中
年8回のFOMCの中でも、 特に市場への影響が大きい会合があります。
【3月FOMC】
年初最初の「重要FOMC」。年間の金融政策の方向性が示されやすい。SEP(経済見通しサマリー)が公表される4回のうちの1回。
【6月FOMC】
上半期の経済データを踏まえた政策修正が起きやすい。SEP公表あり。年央のターニングポイントになることが多い。
【9月FOMC】
夏場のデータを反映した重要な会合。SEP公表あり。年末に向けた政策方針が示されやすく、市場が注目度を高める。
【12月FOMC】
年末最後の重要会合。SEP公表あり。翌年の利上げ・利下げ回数の見通しが示され、年明けの相場に影響する。
SEP(Summary of Economic Projections)とは、 FRB参加者が示す経済見通しと政策金利予測を集約したものです。 いわゆる「ドットチャート」として知られ、 将来の利上げ・利下げ回数の市場予想に直結します。
3月・6月・9月・12月のFOMCは、
SEPが公表される「特に重要な4回」として
年間カレンダーに組み込んでおく必要があります。
■ 「利上げ局面」と「利下げ局面」でパターンは変わる
FOMCのシーズナリティは、 金融政策の大きな方向性(利上げ局面か利下げ局面か)によって パターンの現れ方が変わります。
利上げ局面のFOMC前後
- 利上げ幅が予想より大きい場合 → 株価は大幅下落しやすい
- 利上げ幅が予想通りの場合でも、「今後の利上げ継続示唆」があれば下落
- グロース株・ハイテク株の下落幅がバリュー株より大きくなりやすい
利下げ局面のFOMC前後
- 利下げ開始は「景気悪化への対応」という側面もあるため、必ずしも株高にならない
- 「予防的利下げ」(景気が悪化する前の先手)は市場に好感されやすい
- 利下げ期待の「先取り」で、FOMC前に株価が上昇しているケースも多い
「利下げ=株高」という単純な公式は成立しません。
利下げの「理由」と「市場が既に織り込んでいる量」が
株価反応を決めます。
■ FOMCと日本株への波及
FOMCの影響は米国株に留まりません。
日本株シリーズで学んだ「外国人投資家の行動パターン」と 組み合わせると理解が深まります。
FOMCでタカ派的な結果が出た場合、
↓
外国人投資家がリスクオフに転換
↓
日本株も「アジアの一員」として売られる
↓
円高が進行しやすく、輸出企業の業績期待も低下
という連鎖が起こりやすくなります。
日本株と米国株を同時に保有している投資家にとって、 FOMCは「両市場の需給を同時に動かすイベント」として 認識しておく必要があります。
■ 長期投資家にとってのFOMCの意味
FOMCの前後に毎回売買を繰り返すことは、 長期投資家にとって適切ではありません。
長期投資家にとってFOMCが意味を持つのは、 次の2つの局面です。
① 金融政策の大きな転換点を見極める
利上げサイクルの終わりや利下げサイクルの始まりは、 グロース株とバリュー株の相対的な優位性を変える可能性があります。 日本株シリーズの「グロース vs バリュー(金利耐性)」で 整理した構造が、ここで実践的な意味を持ちます。
② FOMC前後の「需給ノイズ」を冷静に見る
FOMC前の「様子見売り」やFOMC後の「アク抜け上昇」は、 企業の業績や成長ストーリーとは無関係な需給の動きです。
FOMCのシーズナリティを知ることで、
「今の値動きは金融政策への反応なのか、
企業価値の変化なのか」を区別できるようになります。
