現在のPERは何を語っているのか
第0回では、株式リターンを次の3つに分解しました。
① 利益成長(EPS成長)
② 株主還元(配当・自社株買い)
③ 評価倍率の変化(マルチプル:PERなど)
第1回〜第5回では、この③(評価倍率)が何によって決まり、
どのように変化するのかを整理してきました。
最終回では、この枠組みを「逆算」として使います。
市場がどのような前提を置いているのかを読み解くこと。
■ 期待リターンを式で表す
第0回の分解式を、期待リターンとして整理すると次のようになります。
ここで、マルチプル(PER)が変化しないと仮定すれば、
これは第0回の数値例(6%+2%=8%)と同じ構造です。
逆に言えば、
市場が期待しているEPS成長率を逆算できます。
■ 利益利回りという逆算の起点
第1回で確認したように、PERの逆数は利益利回りです。
例えばPER25倍であれば、利益利回りは4%です。
この4%が、企業がEPSとして生み出している「利益ベースの利回り」です。
ここに配当利回り(例:1.5%)を加えると、
PERが維持される前提では、この5.5%が期待リターンの出発点になります。
■ 数値例:PERから成長期待を読む
具体的な数値で考えます。
配当利回り:0.5%
あなたが求める期待リターン:8%
利益利回りは、1 ÷ 40 = 2.5%です。
PERが維持されると仮定すれば、
つまりこの株に8%のリターンを期待するためには、
毎年5%以上のEPS成長が必要という前提が含まれています。
さらに、PER40倍という評価倍率が「維持される」という仮定も暗黙に置かれています。
逆算とは、「この株を買う」という判断に
どのような前提が埋め込まれているかを確認する作業です。
■ PERが維持されない場合のリターン
第3回の数値例を思い出してください。
PER:40倍 → 25倍に修正
株価:4000円 → 2750円(−31%)
EPSが10%成長しても、PERが修正されれば株価は大幅に下落します。
この場合の実現リターンを分解すると、
② 配当:仮に0.5%
③ マルチプル変化:−37.5%(40倍→25倍)
合計:約 −27%
EPSという企業要因は良好でも、③の変化が全体のリターンを支配してしまいます。
高PER銘柄への投資は、
PERが維持されるという仮定に大きく依存しています。
■ 期待リターンの逆算を投資判断に使う
逆算の手順は次のとおりです。
まず現在のPERから利益利回りを計算します。次に配当利回りを加えます。
そこから自分が求める期待リターンを引いた残りが、
「PERが維持される前提での必要EPS成長率」になります。
この必要成長率が、
- 企業の実態として達成可能な水準か
- 業界環境や競合状況と整合しているか
を検討することが、バリュエーション分析の実践的な使い方です。
重要なのは答えを出すことではなく、
「この投資判断には、どのような前提が含まれているのか」
を数値として認識すること。
■ シリーズ全体の整理
このシリーズを通じて確認してきたことを、最後に一行で整理します。
③(マルチプル)は、
- 企業の成長フェーズ(第2回)
- 将来利益への期待(第1回・第3回)
- 金利という外部環境(第4回・第5回)
によって変化します。そして③への依存度が高いほど、リターンは外部環境に左右されます。
バリュエーション分析の目的
「なぜその株を買うのか?」を、
感覚ではなく構造で説明できるようにすること。
この問いに、自分の言葉で答えられるようになることが、
バリュエーションを学ぶ意味です。
― シリーズ完結 ―
