グローバルカレンダーで市場を読む
2つのシリーズを通じて、日本株と米国株それぞれの シーズナリティの構造を整理してきました。
【日本株シーズナリティシリーズ】
年金リバランス・自社株買い・税制・決算カレンダー・セクター事業サイクル・外国人投資家・マルチプル変動・パターンの崩れと市場の学習
【米国株シーズナリティシリーズ】
FOMCカレンダー・米国決算シーズンの作法・大統領選挙サイクル・自社株買いとブラックアウト期間・S&P500リバランスと指数効果・セクターETFの資金フロー
最終回では、この2つを「同時に読む」視点を提示します。
複数の接点で連動・干渉し合っています。
その構造を理解することが、グローバルカレンダーで読む力になります。
■ 日米市場が連動する構造的な理由
日本株と米国株は、なぜ連動するのでしょうか。
表面的には「米国が下がると日本も下がる」という経験則として 知られていますが、その背景には複数の構造的な理由があります。
① 外国人投資家を通じた直接的な連動
日本株の売買代金の約60〜70%を占める外国人投資家の多くは、 米国株も同時に運用しています。
米国株が大きく下落したとき、 外国人投資家がリスク全体を削減するために 日本株も同時に売却します。 これは日本企業の業績や日本経済の状況とは無関係に起きる、 「リスクオフの連鎖」です。
② FOMCが日本株のマルチプルを動かす
米国の金融政策(第1回)は、 グローバルな割引率の基準として機能しています。 FOMCでタカ派的な決定が出ると、 日本株のマルチプルにも下落圧力がかかります。 バリュエーション講座で整理した「金利とPERの関係」が、 国境を越えて波及する構造です。
③ 為替を通じた間接的な連動
米国の金利動向は円ドル相場に影響し、 円相場の変動は日本の輸出企業の業績期待を変えます。
FOMCでタカ派(利上げ示唆)
↓
米ドル高・円安が進みやすい
↓
日本の輸出企業のEPS期待が上昇
↓
日本株(特に輸出関連)が上昇しやすい
※ ただし米国株が同時に下落していれば、リスクオフの力が円安効果を上回ることもある
このように、日米の連動は一方通行ではなく 複数の経路が絡み合った複雑な構造です。
■ グローバルカレンダーを組み立てる
日米のシーズナリティを月別に統合すると、 「グローバルカレンダー」として整理できます。
【1月】
米:January Effect・外国人資金の新年度流入
日:新年度資金流入・外国人投資家の買い戻し
→ 両市場でリスクオン傾向。グロース株・小型株に追い風
【2〜3月】
米:4Q決算シーズン・ブラックアウト解除・重要FOMC(3月)
日:3月期末に向けた需給変動・年金リバランス・配当権利確定
→ 日本は3月末に向けて売り圧力。米国はFOMCで方向性が出やすい
【4〜5月】
米:1Q決算シーズン・ブラックアウト解除
日:本決算集中・自社株買い本格化・配当再投資
→ 両市場で決算が重なる。好業績銘柄への資金集中が起きやすい
【6〜7月】
米:重要FOMC(6月)・2Q決算シーズン開始
日:株主総会シーズン・中間決算準備
→ FOMCの結果が両市場の方向性を決めやすい時期
【8月】
米:2Q決算シーズン後半・薄商い
日:欧州バカンス・夏枯れ・お盆
→ 両市場で参加者が減少。流動性低下・ボラティリティ上昇リスク
【9〜10月】
米:重要FOMC(9月)・3Q決算シーズン
日:3Q決算準備・下半期の業績修正期待
→ 年間で最もイベントが集中する時期。需給が動きやすい
【11〜12月】
米:大統領選挙(4年に1度)・Tax-loss selling・年末持ち高整理
日:外国人の年末売り・損出し・重要FOMC(12月)
→ 両市場で売り圧力が重なりやすい。年末ラリーと綱引き状態になることも
■ 「力の重なり」と「力の相殺」を読む
グローバルカレンダーを使う際に重要なのは、日米のシーズナリティが「同じ方向を向く時期」と「逆の方向を向く時期」を区別することです。
力の同じ方向を向くとき(増幅)
例:1月
米国:January Effect・新年度資金流入(買い)
日本:外国人投資家の買い戻し(買い)
→ 両市場の買い圧力が重なり、上昇が増幅されやすい
例:8月
米国:薄商い・バカンス(需給悪化)
日本:夏枯れ・お盆(需給悪化)
→ 両市場の流動性低下が重なり、ボラティリティが高まりやすい
力の逆の方向を向くとき(相殺・複雑化)
例:3月末
米国:FOMC後のブラックアウト解除・自社株買い再開(買い支え)
日本:年度末の需給悪化・外国人持ち高整理(売り圧力)
→ 力が相殺し合い、方向感が出にくくなる
需給の偏りが増幅されリスクが高まりやすい。
逆の方向を向く局面は、方向感が出にくく
どちらか強い力が主導権を握ります。
■ どのシーズナリティが「上位」に来るか
複数のシーズナリティが重なるとき、どれが最も強い影響を持つのでしょうか。2つのシリーズを通じて見えてきた優先順位があります。
最上位:マクロ環境(金利・景気後退・外部ショック)
↓
第2位:FOMCカレンダー・大統領選挙サイクル(米国発の制度的力)
↓
第3位:決算シーズン・企業業績の方向性
↓
第4位:年金リバランス・自社株買い・税制(国内の制度的力)
↓
第5位:ETF資金フロー・センチメントの季節性
この優先順位は、日本株シリーズ第5回で整理した「マルチプル変動の3つの層(構造層・循環層・需給層)」とほぼ対応しています。
上位の力が激しく動いているとき、下位のシーズナリティは無効化されます。2022年のFRBによる急速な利上げ局面がその典型で、あらゆる季節的な「買い材料」が金利上昇という上位の力に打ち消されました。
■ 日米をまたいだポートフォリオへの示唆
日本株と米国株を両方保有している投資家にとって、グローバルカレンダーの理解は実践的な意味を持ちます。
①リスクが集中する時期を認識する
日米のシーズナリティが同じ方向(特に売り圧力)に向く時期は、ポートフォリオ全体のリスクが高まります。例えば、11〜12月は米国のTax-loss selling・年末持ち高整理と日本の外国人売りが重なりやすく、両市場への投資を持つポートフォリオには同時に下落圧力がかかりやすい時期です。
②「なぜ今この動きか」を2つの文脈で読む
日本株が下落しているとき、原因が日本国内のシーズナリティにあるのか、米国発のリスクオフが波及しているのかを区別することで、より正確な状況判断ができます。
③為替を「第三の変数」として意識する
日米をまたいだポートフォリオでは、株価の動きだけでなく為替の変動がトータルリターンに影響します。FOMCの結果→円ドル相場→日本輸出株の業績期待という連鎖を常に意識しておくことが重要です。
■ 3つのシリーズを通じて伝えたかったこと
バリュエーション講座・日本株シーズナリティ・米国株シーズナリティ、3つのシリーズを通じて、一貫して伝えてきたことがあります。
バリュエーション講座より
「なぜその株を買うのか」を、感覚ではなく構造で説明できるようにすること。
日本株シーズナリティより
「なぜ市場は今こう動いているのか」を、需給の構造で説明できるようにすること。
米国株シーズナリティより
「なぜ米国市場はこのリズムで動くのか」を、制度の構造で説明できるようにすること。
3つに共通しているのは、「感覚」を「構造」に変換するという一点です。
株価の動きにはノイズが多く、その場その場の感情で判断していると長期投資の軸がぶれ続けます。「なぜ今これが起きているのか」を構造として説明できる力は、市場の短期的な動きに振り回されない冷静な判断力の基盤になります。
予測はできない。
しかし、構造は理解できる。
その理解が、長期投資家にとっての本当の武器になります。
