季節要因がPERを動かすとき
ここまでのシリーズで、需給の偏りを生む4つの力を整理してきました。
第2回:決算カレンダーと期待値の非対称性
第3回:セクター固有の事業サイクル
第4回:外国人投資家のグローバルカレンダー
これらの需給の力は、株価を動かします。
しかし、株価が動くとき、何が変化しているのでしょうか。
バリュエーション講座で整理した理論株価の式を思い出してください。
需給の変化が株価を動かすとき、EPSは短期間では変わりません。
PER(評価倍率=マルチプル)の変化として現れます。
つまり、シーズナリティはEPSを変えるのではなく、
市場がEPSに何倍の評価を与えるかを変えるのです。
■ 需給とマルチプルの関係を整理する
需給の変化がマルチプルに影響するルートは、大きく2つあります。
① 直接的なルート:売買圧力による株価変動
年金のリバランス買い、自社株買いの集中、外国人投資家の年末売りなどは、企業の業績とは無関係に株価を動かします。
需給による株価下落 → EPS変わらず → PER低下(マルチプル縮小)
② 間接的なルート:期待値の変化を通じた影響
決算シーズンや特定の経済指標の発表時期には、市場全体の「センチメント(投資家心理)」が変化します。
センチメントの改善は「リスク許容度の上昇」をもたらし、それがマルチプルの拡大として現れます。
逆に、センチメントの悪化はマルチプルの縮小として株価に影響します。
シーズナリティによるマルチプル変動は、
「企業の実力が変わった」のではなく
「市場の評価のものさしが変わった」ことを意味します。
■ マルチプルが拡大しやすい時期
これまでの各回を整理すると、マルチプルが拡大しやすい時期が見えてきます。
・外国人投資家の新年度資金流入(第4回) ・January Effectによる買い戻し ・新年の楽観的なセンチメント → マルチプル拡大の圧力が生じやすい
・決算発表後の自社株買い本格化(第1回) ・配当再投資の流入 ・新年度の機関投資家による新規組み入れ → 需給の押し上げによるマルチプル維持・拡大
・第2四半期決算での上方修正ラッシュ(第2回) ・年末ラリーへの期待感の先取り → 好決算銘柄を中心にマルチプルが拡大しやすい
■ マルチプルが縮小しやすい時期
・年金リバランス・外国人の持ち高整理・配当権利落ち ・複数の売り圧力が重なる → 需給悪化によるマルチプル縮小圧力
・薄商い・バカンスによる参加者減少 ・リスクオフニュースへの過剰反応 → 流動性低下によるマルチプルの不安定化
・外国人の年末持ち高整理・Tax-loss selling ・含み損銘柄への売り圧力集中 → 特に低評価・低流動性銘柄でマルチプルが縮小しやすい
■ 重要な注意点:マルチプル変動の「層」を見分ける
マルチプルが変動する理由は複数あります。
バリュエーション講座では、マルチプルを変動させる要因として、
- 金利(割引率)の変化
- 成長期待の変化
- リスクプレミアムの変化
を整理しました。今回のシーズナリティによるマルチプル変動は、これらに加わる「需給・センチメントの層」です。
【マルチプル変動の3つの層】
(中長期的・比較的持続する)
(数ヶ月〜数年単位)
(短期的・一時的に反転しやすい)
株価が動いたとき、「今動いているのはどの層か」を区別することが重要です。
需給層によるマルチプル変動は一時的であることが多く、
構造層・循環層に変化がなければ、
株価は中長期的に本来の水準に回帰しやすい傾向があります。
■ 長期投資家にとっての意味
シーズナリティによるマルチプル変動を理解すると、長期投資家にとっての実践的な含意が見えてきます。
需給の悪化によってマルチプルが一時的に縮小している局面は、
- 企業の実力(EPS成長の軌道)に変化がない
- 金利・成長期待という構造層にも変化がない
という条件が揃っていれば、「需給の歪みが生み出す一時的な割安」として捉えられる可能性があります。
逆に、センチメントの改善によってマルチプルが拡大している局面は、EPS成長の裏付けがなければ持続しにくく、「需給が落ち着けばマルチプルが戻る可能性」を念頭に置く必要があります。
シーズナリティを知ることで、
「今の株価の動きはノイズか、シグナルか」を
より冷静に判断できるようになります。
