【第2回|決算編】決算カレンダーと期待値の非対称性

業績は良くても株価が下がる理由

「好決算なのに株価が下落した」

投資を始めてしばらくすると、必ずこの現象に遭遇します。
業績は予想を上回った。それなのに翌日の株価は下がった。

これは市場が間違っているのでしょうか。
それとも、自分の理解が間違っているのでしょうか。

答えは「期待値」にあります。
株価は業績そのものではなく、
「業績と事前の期待との差」に反応します。

■ 決算とは「答え合わせ」ではなく「期待の更新」である

多くの初心者は、決算を「業績の発表」として捉えます。
しかし市場参加者にとって決算とは、

事前に織り込んでいた期待値と、実際の数字との「差(サプライズ)」を確認する場

です。株価はすでに「期待」を織り込んで動いています。
決算発表はその期待を更新するイベントにすぎません。

したがって、

  • 業績が良くても「期待通り」なら株価は動かない
  • 業績が良くても「期待を下回る」なら株価は下落する
  • 業績が悪くても「期待より良い」なら株価は上昇する

市場が動くのは「事実」ではなく「事実と期待の差」です。

■ 日本市場の決算カレンダー

日本の上場企業の約7割は3月期決算です。
このため、決算発表が特定の時期に集中します。

【本決算】4月下旬〜5月中旬
→ 3月期の通期実績+翌期の業績予想が開示される
【第1四半期決算】7月下旬〜8月中旬
→ 4〜6月期の進捗が開示される
【第2四半期決算(中間)】10月下旬〜11月中旬
→ 上期実績+通期予想の修正が多く出る
【第3四半期決算】1月下旬〜2月中旬
→ 9ヶ月累計と通期着地の見通しが焦点

この集中構造が、年4回の「決算シーズン」を形成します。
決算シーズン中は、多数の企業の情報が一気に開示されるため、

  • 市場全体のボラティリティが上がりやすい
  • セクター内での優劣が一斉に再評価される
  • 決算またぎ(発表前後)の値動きが大きくなる

という特徴がうまれます。

■ 期待値の非対称性とは何か

ここが本稿の核心です。
決算における期待値には、構造的な非対称性があります。

上方サプライズより下方サプライズの方が、
株価への影響が大きい。

これは行動経済学でいう「損失回避バイアス」とも関係していますが、構造的な理由もあります。
日本企業の多くは、業績予想を「保守的」に開示する傾向があります。

  • 期初の予想は低めに設定され、年度中に上方修正されるパターンが多い
  • 市場はこの「保守的なガイダンス」を織り込んで期待値を形成する
  • したがって、期初予想を下回る決算は「相当悪い」というシグナルになる

【上方サプライズの場合】

期待値(すでに高め)を超える → 株価上昇
ただし「さらなる成長期待」が積み上がり、次回のハードルが上がる

【下方サプライズの場合】

期待値を下回る → 株価下落
さらに「成長ストーリーへの疑念」が生じ、PERも同時に低下しやすい

下方サプライズで起きる「業績悪化+PER低下」の同時発生は、
バリュエーション講座第1回で扱った「ダブルパンチ」と同じ構造です。

期待値の非対称性とは、
上振れの恩恵より下振れのダメージの方が大きくなりやすい
という構造的な偏りです。

■ 通期予想の修正が最も動く:10〜11月

4回の決算の中で、最も市場への影響が大きいのが第2四半期決算(10〜11月)です。
理由は明確です。

  • 上期(6ヶ月)の実績が揃い、通期の着地が高精度で予測できる
  • 企業側も通期予想を修正しやすいタイミングになる
  • 上方修正・下方修正の発表が集中し、銘柄間の格差が鮮明になる

したがって10~11月は、

保有銘柄の「成長ストーリーが維持されているか」を
最も厳密に確認できる時期でもあります。

■ 「保守的ガイダンス」のパターンを読む

前述の通り、日本企業は期初に保守的な業績予想を出す傾向があります。
これはある種の「アノマリー」として観察されており、

  • 期初予想が低い → 年度中に上方修正が続く → 株価が緩やかに上昇

というパターンが統計的に確認されています。ただし注意が必要です。
このパターンが機能するのは、企業の事業環境が大きく変化しない場合に限られます。

  • 為替・原材料コストの急変
  • 競合環境の変化
  • マクロ景気の急速な悪化

これらが重なると、保守的な期初予想であっても 下方修正を余儀なくされることがあります。

パターンを知ることと、
パターンが崩れる条件を知ること。
この両方が、決算を読む力になります。

■ 長期投資家にとっての決算の意味

決算シーズンに株価が大きく動いても、長期投資家が毎回売買する必要はありません。
決算を通じて確認すべきは、

  • 自分が投資した「成長ストーリー」が維持されているか
  • EPS成長の軌道がずれていないか
  • 市場の期待値が自分の想定と大きく乖離していないか

の3点です。バリュエーション講座で学んだリターン分解を思い出すと、決算は

① EPS成長の軌道確認
③ 市場の期待(マルチプル)が維持されるかの判断材料

という2つの視点で読むことができます。

決算は「売買の引き金」ではなく、
「投資仮説の検証タイミング」として使うことが、
長期投資家にとっての正しい向き合い方です。