EPS × 期待PERという仮定
前回までに、バリュエーション指標は企業の構造や成長フェーズによって使い分ける必要があることを整理しました。
本稿では、理論株価という考え方を通じて、
数式として可視化すること
を目的とします。
■ 理論株価の基本形
実務では、現在のEPSではなく、
- 来期予想EPS
- 再来期予想EPS
といった将来の利益水準を用いることが一般的です。株価とは、
- 将来どれだけ利益を生むか(EPS)
- その利益に市場が何倍の評価を与えるか(PER)
という2つの仮定の掛け算にすぎません。
■ EPSを分解する
EPSは単なる利益ではなく、
- 売上成長率
- 利益率
- 資本効率(希薄化)
の組み合わせによって決まります。
- 売上が伸びても利益率が低下すればEPSは伸びない
- 利益が増えても増資によってEPSは希薄化する
企業の事業成長と資本政策の双方に対する仮定を置くこと
に他なりません。
■ 期待PERとは何か
一方、期待PERは市場の評価に関する仮定です。これは企業の成長性だけでなく、
- 金利水準
- 景気環境
- リスクプレミアム
といった外部要因に依存します。期待PERの設定方法としては、
- 同業他社の平均PER
- セクターのヒストリカルPER
- 金利水準からの逆算
(詳細は次回以降で整理)
■ 仮定は同時にリスクである
理論株価は次の2つの仮定に依存します。
- EPSが想定通り成長する
- PERが維持される
しかしこの2つは性質が異なります。
- EPSリスク:企業分析によって一定程度コントロール可能
- PERリスク:市場環境によって外生的に変動
バリュエーション分析の意義とは、コントロール困難なPERリスクではなく、企業分析によって把握可能な「利益成長(EPS成長)」への依存度を高めることにあります。
■ 数値例
→ 理論株価:2000円
その後、
- EPS:110円に成長
- PER:15倍に修正
された場合、
EPSは成長しているにも関わらず、評価倍率の修正によって株価は下落します。これがマルチプル縮小の影響です。
■ 数式にする意味
理論株価の式は、株価を予測するためのものではありません。むしろ、
定性的な成長ストーリーを、
定量的な仮定として検証可能にするためのツール
として機能します。投資判断とは、
- 企業の成長に賭けているのか
- 市場の評価維持に賭けているのか
を数値として認識する行為とも言えます。
