【第3回|計算編】理論株価とは何か?

EPS × 期待PERという仮定

前回までに、バリュエーション指標は企業の構造や成長フェーズによって使い分ける必要があることを整理しました。

本稿では、理論株価という考え方を通じて、

投資判断に含まれている前提条件を、
数式として可視化すること

を目的とします。

■ 理論株価の基本形

理論株価 = 予想EPS × 期待PER

実務では、現在のEPSではなく、

  • 来期予想EPS
  • 再来期予想EPS

といった将来の利益水準を用いることが一般的です。株価とは、

  • 将来どれだけ利益を生むか(EPS)
  • その利益に市場が何倍の評価を与えるか(PER)

という2つの仮定の掛け算にすぎません。

■ EPSを分解する

EPSは単なる利益ではなく、

  • 売上成長率
  • 利益率
  • 資本効率(希薄化)

の組み合わせによって決まります。

  • 売上が伸びても利益率が低下すればEPSは伸びない
  • 利益が増えても増資によってEPSは希薄化する

企業の事業成長と資本政策の双方に対する仮定を置くこと

に他なりません。

■ 期待PERとは何か

一方、期待PERは市場の評価に関する仮定です。これは企業の成長性だけでなく、

  • 金利水準
  • 景気環境
  • リスクプレミアム

といった外部要因に依存します。期待PERの設定方法としては、

  • 同業他社の平均PER
  • セクターのヒストリカルPER
  • 金利水準からの逆算

(詳細は次回以降で整理)

■ 仮定は同時にリスクである

理論株価は次の2つの仮定に依存します。

  • EPSが想定通り成長する
  • PERが維持される

しかしこの2つは性質が異なります。

  • EPSリスク:企業分析によって一定程度コントロール可能
  • PERリスク:市場環境によって外生的に変動

バリュエーション分析の意義とは、コントロール困難なPERリスクではなく、企業分析によって把握可能な「利益成長(EPS成長)」への依存度を高めることにあります。

■ 数値例

EPS:100円 / 期待PER:20倍
→ 理論株価:2000円

その後、

  • EPS:110円に成長
  • PER:15倍に修正

された場合、

理論株価 = 110円 × 15倍 = 1650円

EPSは成長しているにも関わらず、評価倍率の修正によって株価は下落します。これがマルチプル縮小の影響です。

■ 数式にする意味

理論株価の式は、株価を予測するためのものではありません。むしろ、

定性的な成長ストーリーを、
定量的な仮定として検証可能にするためのツール

として機能します。投資判断とは、

  • 企業の成長に賭けているのか
  • 市場の評価維持に賭けているのか

を数値として認識する行為とも言えます。