「回収年数」という比喩の限界
PER(株価収益率)は、最も広く使われているバリュエーション指標です。
一般的には、
- PERが低い → 割安
- PERが高い → 割高
と解釈されますが、この理解だけでは投資判断にはほとんど役立ちません。なぜなら、PERは単なる「割安度」ではなく、投資家が将来の成長に対してどの程度の前提を置いているかを示す指標だからです。
■ PERは「年数」で考えることができる
PERは、次のように定義されます。
この式を逆にすると、
例えばPER10倍とは、株価の10%に相当する利益が毎年生まれている状態を意味します。
年利10%相当
年利5%相当
年利2.5%相当
PERとは、現在の利益水準が続いた場合の
「仮の投資回収期間」を意味している。
PER20倍であれば、理論上は20年で投資額と同等の利益が生まれる計算になります。ただし、ここでいう「回収」とは、元本が手元に戻ることを意味するわけではなく、利益ベースでの計算上の話に過ぎません。
■ この理解には“前提”がある
PERが投資回収期間として機能するのは、
- 利益が将来も維持される
- 資本構造が変化しない
- 計上された利益が実際にキャッシュとして株主に届く構造である
- 利益が全額株主に還元される
しかし実際の企業は、
- 成長投資のために利益を再投資する
- 利益率が変動する
- 景気循環の影響を受ける
といった要因により、利益水準は時間とともに変化します。したがってPERは、実際の回収期間ではなく、現在の利益を前提とした“仮定上の年数”と理解する必要があります。
■ 成長鈍化は「ダブルパンチ」になり得る
ここで扱っているのは、第0回で整理した株式リターンのうち、③(評価倍率の変化)に関するリスクです。
市場が将来の成長を期待している企業ほど、PERは高くなる傾向があります。しかし、その期待が崩れた場合、
- 利益成長の鈍化
- 評価倍率(PER)の修正
が同時に起こる可能性があります。
EPS:100円 × PER20倍 = 株価2000円
EPS(利益)が変わらなくても、市場の評価倍率が修正されるだけで、株価は50%下落します。
成長の鈍化は、利益の伸びだけでなく、
評価そのものの見直しを引き起こす可能性があります。
■ PER単体では答えは出ない
PERは有用な指標ですが、「利益が株主価値を適切に表している」という前提に依存しています。
この前提が成立しない企業――
- 赤字企業
- 成長投資を優先する企業
- 実際に手元に残るお金と会計上の利益が大きく異なる企業
に対しては、別のバリュエーション指標を用いる必要があります。
