稼ぐ力の次に問うべき、「現金が残る事業構造」
前回の記事では、ROEは「入口」に過ぎず、 事業そのものの稼ぐ力を見るためには ROIC・ROCE が重要であることを整理しました。
では、ROICやROCEが高ければ、その企業は「良い投資先」と言えるのでしょうか。
結論から言うと、まだ判断材料としては不十分です。
なぜなら、ROICが示すのは会計上の利益ベースでの資本効率であり、 事業が生み出した現金が、最終的にどれだけ企業に残るかまでは分からないからです。
ROICは「稼ぐ力」を測る指標だが、「残る力」は分からない
ROIC(投下資本利益率)は、
- 事業に投下した資本に対して
- どれだけ営業利益を生み出しているか
を見る指標です。
つまり、ROICは
を判断するのに向いています。
一方で、次の問いには答えてくれません。
ROICは「どれだけうまく稼げているか」を測る指標であり、 「稼いだ後に何が残るか」までは示さない点に注意が必要です。
利益が出ていても現金が増えないケース
会計上の利益が出ていても、現金が増えないことは珍しくありません。
- 設備投資に多額の資金が必要
- 在庫や売掛金が増え続ける
- 維持更新投資だけで手一杯
こうした企業は、ROICが高く見えても、
状態に陥ります。
長期投資において重要なのは、
です。
そこで登場するのがフリーキャッシュフロー(FCF)
フリーキャッシュフロー(FCF)は、
- 営業キャッシュフロー
- - 設備投資(事業を維持・拡大するための投資)
で計算される、
を表す指標です。
FCFが安定してプラスであれば、
- 借金返済
- 自社株買い・配当
- 成長投資
を外部資金に依存せず行えます。
つまり、
FCF=企業に残るお金
という役割分担になります。
FCFを見るときの3つの視点
- FCFの絶対額:企業が生み出す現金の「規模」
- FCFマージン:ビジネスモデルの「現金変換効率」
- FCF利回り:株価に対する「現金創出力」
この3つを組み合わせることで、
を同時に確認できます。
【実例】サンリオの10年データで見るFCFの推移
では、実際にサンリオの過去10年間のデータを使って、上記3つの視点(FCF額、FCFマージン、FCF利回り)を確認してみましょう。
以下の表は、IRBANKと有価証券報告書のデータをもとに、FCFの算出に必要な「営業CF」「設備投資」「売上高」「期末時価総額」をまとめたものです。
この実例では、以下の3点に注目してください。
- FCFの「額」が中長期で増えているか
- FCFマージンが改善しているか
- 株価上昇に対して、FCF利回りが極端に悪化していないか
| 決算期 | 売上高 (百万円) |
営業CF (百万円) |
設備投資 (百万円) |
FCF (百万円) |
FCF マージン |
期末時価総額 (億円・概算) |
FCF 利回り |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2025/3 | 144,904 | 40,816 | 3,804 | 37,012 | 25.5% | 16,301 | 2.3% |
| 2024/3 | 99,981 | 22,173 | 2,339 | 19,834 | 19.8% | 7,203 | 2.8% |
| 2023/3 | 72,624 | 11,525 | 1,005 | 10,520 | 14.5% | 4,782 | 2.2% |
| 2022/3 | 52,763 | 5,064 | 715 | 4,349 | 8.2% | 2,020 | 2.2% |
| 2021/3 | 41,053 | △2,287 | 1,053 | △3,340 | △8.1% | 1,413 | - |
| 2020/3 | 55,261 | 834 | 1,434 | △600 | △1.1% | 1,206 | - |
| 2019/3 | 59,120 | 4,868 | 928 | 3,940 | 6.7% | 2,240 | 1.8% |
| 2018/3 | 60,220 | 3,936 | 1,082 | 2,854 | 4.7% | 1,639 | 1.7% |
| 2017/3 | 62,695 | 7,037 | 1,154 | 5,883 | 9.4% | 1,735 | 3.4% |
| 2016/3 | 72,476 | 10,011 | 2,003 | 8,008 | 11.0% | 1,868 | 4.3% |
※ FCFは「営業CF-設備投資」で算出。時価総額は各期末時点の概算値を使用。
この表からは、サンリオの事業構造そのものの変化が読み取れます。
- 2020年〜2021年の低迷期:営業CF自体が弱く、FCFはマイナス、または資産売却などによる一時的なプラスにとどまっています。本業から現金を生み出せていない状態でした。
- 2023年以降の構造改善期:営業CFの拡大に伴いFCFが大きく増加し、売上高に対する現金の残り方(FCFマージン)が10%未満 → 20%超へと改善しています。稼いだ利益が、きちんと現金として残る体質に変化しています。
- FCF利回りの示唆:株価(時価総額)が上昇しているにもかかわらず、それを上回るペースでFCFが拡大しているため、「割高化」ではなく「現金創出力の裏付けを伴った株価上昇」と解釈できます。
このようにデータを並べることで、単なる「利益の増減」ではなく、企業が「現金を生み続けられる構造」へ移行しているかどうかが見えてきます。
指標のつながりを整理すると
ROIC・ROCE:事業の稼ぐ力
FCF:稼いだ後に残る現金
指標は優劣を競うためのものではなく、
です。
ROICの次にFCFを見ることで、
を同時に確認できるようになります。
これは、短期の業績よりも、 長期で生き残る可能性が高い企業を見極めるための視点です。
