資本構成ではなく、事業そのものの強さを測る指標
株式市場では今も「ROEが高い企業が優良企業」という語りが溢れています。
しかしROEは、企業の事業の強さではなく、資本構成の結果を見ている指標です。
本当に知りたいのは、
その会社の事業は、投下した資本をどれだけ効率よく利益に変えているのか?
この問いに答える指標がROIC(Return on Invested Capital)です。
1. ROICとは何か
ROIC = EBIT ÷(自己資本+有利子負債)
非常にシンプルに言えば、
事業に必要な資本を使って、本業でどれだけ稼いだか
を見る指標です。ROEが「株主のお金だけ」を見るのに対し、ROICは借金も含めた事業全体の資本を対象にします。
2. なぜROICはROEより“中身”が見えるのか
- 借金でROEを盛ってもROICは上がらない
- 本業(EBIT)を使うため一過性利益の影響が小さい
- 事業モデルの改善・悪化が数字に出やすい
つまりROICは経営の巧拙よりも「事業構造の良し悪し」に近い指標です。
理論的には、ROICが資本コスト(WACC)を上回っているかが価値創造の分かれ目です。
3. 実例:サンリオの10年データでROICを見る
ここからは実際の企業データ(サンリオ:8136)を使ってROICを計算します。計算式は簡易版です。
ROIC ≒ 営業利益 ÷(自己資本+有利子負債)
※厳密には NOPAT ÷ 投下資本 が定義だが、本記事では再現性を重視し簡易版を使用
● 直近年度(2025年3月期)
- EBIT(営業利益):51,806 百万円
- 自己資本:107,608 百万円
- 有利子負債:45,323 百万円
ROIC ≒ 約33.9%(極めて高い水準)
● 低迷期(2021年3月期)
- EBIT(営業利益):-3,280 百万円
- 自己資本:37,285 百万円
- 有利子負債:30,962 百万円
ROIC ≒ 約 △4.8%
同じ会社でも、事業の状態によってROICはここまで変わります。
4. ROIC推移(10年)
サンリオの過去10年間のROIC推移データです。2016年頃の安定期から徐々に稼ぐ力が落ち、赤字転落を経て、構造改革により劇的に収益性が向上した様子が読み取れます。
| 決算期 | 営業利益(EBIT) | 自己資本 | 有利子負債 | ROIC | ROE |
|---|---|---|---|---|---|
| 2025/3 | 51,806 | 107,608 | 45,323 | 33.9% | 48.6% |
| 2024/3 | 26,952 | 64,608 | 28,300 | 29.0% | 29.2% |
| 2023/3 | 13,247 | 56,005 | 15,000 | 18.7% | 16.4% |
| 2022/3 | 2,537 | 43,642 | 20,000 | 4.0% | 8.5% |
| 2021/3 | △3,280 | 37,285 | 30,962 | △4.8% | △9.5% |
| 2020/3 | 2,106 | 46,387 | 13,400 | 3.5% | 0.4% |
| 2019/3 | 4,786 | 52,396 | 15,200 | 7.1% | 7.4% |
| 2018/3 | 5,734 | 52,734 | 14,500 | 8.5% | 9.6% |
| 2017/3 | 6,904 | 53,058 | 15,000 | 10.1% | 12.5% |
| 2016/3 | 12,382 | 54,733 | 16,000 | 17.5% | 18.5% |
※単位:百万円 / 有利子負債は概算を含む / データは有価証券報告書より独自集計
ROEとROICが近い年もあれば、大きく乖離する年もある
これは「財務レバレッジ」と「事業の稼ぐ力」を分離して見る必要があることを示しています。赤字期 → 回復期 → 高収益期へと、ROICが構造的に改善していることが分かります。
5. FCFと並べて見る
ROICの改善と同時に、フリーキャッシュフロー(FCF)も拡大しています。
| 決算期 | FCF(百万円) | 状態 |
|---|---|---|
| 2025/3 | +49,000 | 潤沢 |
| 2023/3 | +9,446 | 回復 |
| 2020/3 | △2,790 | 流出 |
| 2016/3 | +8,012 | 安定 |
※FCF=営業CF-投資CF
ROICが改善 → 事業が資本を効率よく利益化 → 現金が残る
この連鎖が成立しているかが最重要です。
6. この実例から分かること
サンリオは、キャラクターIPの収益化方法を 「物販中心」から「ライセンス・グローバル展開中心」へシフトさせました。
事業モデルの変化が、ROICとFCFの同時改善として表れています。
- ROICは企業の「性格」ではなく「事業の状態」を映す
- 高ROICが持続するなら事業モデルが強い可能性が高い
- ROICは必ずFCFとセットで確認する
7. ROICにも限界はある
- ピーク局面の循環企業は一時的に高くなる
- 投資を止めている企業も一時的に高くなる
- 会計基準や減損処理で年ごとに歪むことがある
だからこそ時系列で見ることが重要です。
高ROICかどうかよりも、高ROICを維持できる構造かを見ることが本質です。
8. まとめ
ROEは入口。
ROICは中身。
FCFは結果。
この3つを並べて初めて、企業の実力が立体的に見えてきます。
指標は「当てる道具」ではなく、「構造を考えるための道具」
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