ケーススタディ(最終章) |6つのチェックポイントをどう統合するか

実践ケーススタディ:
「6つの物差し」で3カ国を比較する

【本記事の目的】
前回の記事で学んだ「6つのチェックポイント」を、特徴の異なる3つの国(インド、メキシコ、ポーランド)に実際に当てはめます。
「どの国が正解か」を決めるのではなく、「同じ指標でも、国によって意味合いがどう変わるか」を体感し、自分なりの判断軸を持つことがゴールです。

1. 分析対象:タイプが異なる3つの「成長国」

新興国といっても、その性質は千差万別です。今回は、投資家の人気を分ける代表的な3つのモデルを比較します。

🇮🇳 インド

【王道・人口爆発型】
世界一の人口と巨大な内需。
IT・サービス産業が主導。

🇲🇽 メキシコ

【地政学・製造業型】
米国の隣という最強の立地。
ニアショアリングの筆頭。

🇵🇱 ポーランド

【成熟・欧州統合型】
EU加盟国の安心感。
人口減を「質」でカバーする中進国。

2. スコアリング:6つの視点で解剖する

感情やイメージを排し、前回のチェックポイントに基づいて事実(ファクト)を整理します。

チェックポイント 🇮🇳 インド 🇲🇽 メキシコ 🇵🇱 ポーランド
01. 経済速度
(GDP成長率)
高水準が継続
6〜7%台を維持。
世界最速レベル。
安定的
2〜3%前後。
米国経済に連動しやすい。
安定的〜中
3〜4%前後。
欧州内では優等生。
02. 人口動態
(ボーナス期か)
労働年齢人口が拡大中
平均年齢28歳。
労働力が溢れている。
ボーナス終盤
平均年齢29歳だが、
少子化が始まりつつある。
オーナス期突入
急速な高齢化。
労働力不足が課題。
03. 国の健康
(財政・通貨)
インフレ癖あり
万年経常赤字。
通貨ルピーは減価傾向。
中銀の独立性が高い
中銀の規律が強い。
ペソは比較的安定。
EU準拠の安定感
通貨ズロチはユーロ連動。
財政規律が機能。
04. 成長の質
(強み)
IT・英語・数学
サービス輸出が稼ぎ頭。
内需主導型。
地理的優位性
米国の「工場」機能。
製造業の集積地。
高度人材・EU市場
「欧州の工場」かつ
ITオフショア開発拠点。
05. 安定性
(政治・法)
民主主義だが複雑
州ごとの法規制。
カースト等の社会課題。
治安リスク
対米関係による変動。
麻薬カルテル問題。
法治国家
EU法体系による保護。
(隣国リスク有)
06. 価格
(バリュエーション)
高い成長期待
期待が高くPERが高い。
安く買うのが難しい。
中立〜割安
リスクがある分、
放置されやすい。
割安 (Discount)
成長率の低さや
地政学リスクで安い。

3. 分析:なぜ「結論」が分かれるのか?

上記の表を見て、「どの国が一番良い」と思いましたか?
実は、あなたが「何を重視するか(投資スタイル)」によって、正解となる国が変わります。

ケースA:「超長期の成長」を取りたい人

この条件を重視するなら ➡ 🇮🇳 インド
「02. 人口ボーナス」と「01. 成長速度」を最優先するスタイルです。
今は株価が割高(06)であっても、インフラが未整備(05)であっても、20年後にGDPが数倍になるなら誤差だと考えます。
→ リスク:期待が高すぎて、少しの減速で株価が急落する可能性。

ケースB:「米中対立の恩恵」を狙う人

この条件を重視するなら ➡ 🇲🇽 メキシコ
「04. 成長の質(地理的強み)」を重視するスタイルです。
世界が分断される中、アメリカ市場へのアクセス権は何にも代えがたい価値だと判断します。
→ リスク:米国の政権交代や関税政策に、経済が振り回される可能性。

ケースC:「安全性と割安」を好む人

この条件を重視するなら ➡ 🇵🇱 ポーランド
「05. 法的安定性」と「06. 割安さ」を重視するスタイルです。
人口減少(02)というマイナスはあるものの、先進国に近い法整備と、質の高い労働力による「産業の高度化」で成長できると考えます。
→ リスク:爆発的な成長は望めない。隣国の戦争リスク。

結論:完璧な国はない。「欠点」と付き合う覚悟はあるか?

テンプルトン卿の教えの通り、投資には「悲観(リスク)」と「楽観(リターン)」がセットで存在します。

  • インドを買うなら、「割高な株価」と付き合う必要がある。
  • メキシコを買うなら、「政治・治安リスク」を許容する必要がある。
  • ポーランドを買うなら、「人口減による天井」を意識する必要がある。

チェックリストを使う本当の意義は、優等生を見つけることではなく、
「自分がどのリスクなら許容できるか」を知ることにあるのです。

▶ 新興国投資の見極め方|成長する国を見抜く6つのチェックポイント