雇用やGDPより先に、市場が気づく“企業側の空気”
第1章で整理した「景気の流れ」のうち、いちばん最初に動きやすい場所を具体的な指標で確認します。
「景気が悪くなると、どの指標が最初に崩れるのか?」
この問いに一番早くヒントをくれるのが、企業に“いまどう感じているか”を直接聞く指標です。
なかでも代表的なのが、フィラデルフィア連銀製造業景気指数 (Manufacturing Business Outlook Survey、通称:フィリー連銀指数)。
米国株市場では、毎月の指標の中でも 「先回りの温度計」として反応されやすい存在です。
1. フィリー連銀指数は「何を見ている指標」?
フィリー連銀指数は、フィラデルフィア連銀の管轄地域にある 製造業企業を対象にした月次アンケート調査です。
企業は、工場・現場レベルの実感として、次のような項目について 「良くなった/変わらない/悪くなった」を回答します。
- 全体の事業環境(General Activity)
- 新規受注・出荷(Shipments)
- 雇用・労働時間
- 在庫・納期
- 仕入れ価格・販売価格
重要ポイント:
これは「実績の集計」ではなく、企業の体感・感覚を集めた指標です。
だからこそ、雇用統計やGDPのような あとから確定する数字よりも、先に変化が出やすくなります。
2. なぜ「先行指標」になりやすいのか
投資の文脈で見ると、フィリー連銀指数は ISM製造業指数(全国版PMI)よりも、変化が先に表れることがある。
理由はシンプルです。
① 企業が「先行き不安」を感じる(心理)
↓
② 受注・生産を調整する(行動)
↓
③ 雇用・賃金に表れる(結果)
第1章で整理した「企業 → 雇用 → 消費 → 物価」という流れのうち、
フィリー連銀指数はいちばん上流の「企業心理」を捉える指標です。
そのため、市場が「次に何が起きそうか」を探している局面では、 注目されやすくなります。
3. 指数の読み方:初心者は「符号」だけでいい
フィリー連銀指数は、ディフュージョン・インデックス(拡散指数)です。
- 0より上:良いと答えた企業が多い(拡大寄り)
- 0より下:悪いと答えた企業が多い(縮小寄り)
初心者の段階では、これだけで十分です。
よくあるミス:
「+5だからちょい良い」「-5だからちょい悪い」と、
点数を細かく解釈しすぎること。
まず見るべきは、プラスかマイナスか、そして上向いているか下向いているかです。
4. 米国株が反応しやすい「2つの場面」
場面A:市場が「景気の転換点」を探しているとき
景気が強すぎる/弱すぎる局面では、市場はあまり迷いません。
反応しやすいのは、「次はどっち?」を探しているときです。
そのとき、雇用統計より前に出る 企業側の空気として、フィリー連銀指数が材料視されやすくなります。
場面B:悪化が「続く」とき(ここが本番)
単月のブレは珍しくありません。
本当に重要なのは、弱さが連続するかどうかです。
フィリー連銀指数の悪化が続くと、市場では次の連想が始まります。
- 「ISM(全国版)も弱くなるかもしれない」
- 「生産や受注に波及するかもしれない」
- 「その先で雇用が怪しくなるかもしれない」
この「連続悪化 → 後続指標への警戒」が、 米国株での基本的なストーリー構築になります。
フィリー連銀指数 vs ISM指数(どこが違う?)
| 指標 | カバー範囲 | 役割 | 投資での使い方 |
|---|---|---|---|
| フィリー連銀指数 | 地域・製造業 | 超先行(企業心理) | 景気の「変化の兆し」を最初に探る |
| ISM製造業 | 全米・製造業 | 先行〜一致 | 弱さが全国的かを確認 |
| ISMサービス業 | 全米・サービス業 | 一致〜やや遅行 | 雇用・消費に波及しているかを見る |
ポイント:
製造業は「変化の速さ」、サービス業は「経済の重さ」。
両方そろって悪化して初めて、本格的な景気後退が視野に入ります。
5. 使い方の型(実戦テンプレ)
毎月のニュースは、次のチェックだけで十分です。
- 今月:指数はプラスか、マイナスか
- 前月比:上がったか、下がったか
- それが2〜3回続いているか
- 次に警戒すべき指標はどれか
企業心理 → 生産・受注を見るなら:ISM製造業指数、耐久財受注
企業心理 → 雇用を見るなら:新規失業保険申請、雇用統計
章末まとめ
フィリー連銀指数は、景気の「結果」ではなく、
企業がこれから動こうとする“気配”を先に映す指標です。
弱さが続くほど、ISMや雇用など
「後ろの指標」へ警戒を回す。
これが、相場を当てにいかない投資家の基本スタンスです。
単月の数字に反応するのではなく、「流れになったかどうか」を見ることが重要です。
