第6章:今どの指標を見るべきか?【局面別】

全部見ないための、経済指標の使い分けルール

この章の役割は、経済指標を「暗記」から「判断」へ変換することです。

  • 「正解探し」ではなく、どの指標を優先する局面かを整理する
  • 全部は見ない。今は何を見なくていいかまで決める
  • 指標は当てに行く道具ではなく、状況を読む地図

1. まず前提:「全部同時に動かない」

第1〜5章で見た通り、景気は多くの場合、「企業 → 雇用 → 消費 → 物価」という波及の傾向を持ちます。 だから、局面によって“効く指標”が入れ替わるのが自然です。

企業心理(先行)

実体(生産・売上など/一致)

消費者心理

雇用

物価(遅行)

大事なのは「何を見るか」より、「今は何を見なくていいか」

2. 投資で使いやすい「5つの局面」に分ける

ここではNBERの公式判定(後から確定する)ではなく、投資で使いやすいように“先に置ける分類”にします。

  1. 減速の気配(初動):空気が変わる
  2. 後退の現実化:実体データがついてくる
  3. 底打ち探し:悪化が止まるサインを拾う
  4. 回復の広がり:改善が連鎖する
  5. 過熱・インフレ警戒:強さの副作用を見る

3. 局面①:減速の気配が出始める(最重要)

状況イメージ

  • 数字はまだ崩れていないのに、相場が神経質になる
  • ニュースは強弱が混ざり、「判断しづらい」
  • あとから振り返ると、ここが一番“差”になりやすい

優先して見る(先に)

  • 消費者心理(期待):ミシガン大・Conference Boardなど(「先に不安が出る」)
  • ISM(新規受注など):企業側の体感変化を拾う
  • 地区連銀指数:企業マインドの変化を補足(例:フィリー連銀)
※ 総合指数よりも、新規受注・雇用などの内訳を重視

判断軸はシンプル:
「人と企業が“不安になり始めたか”(=先行する心理が崩れたか)」

まだ見なくていい(後で):失業率 / GDP / CPI単体。
とくに失業率は、悪化が見えてから動きやすく、初動の材料にすると遅れが出ます。

4. 局面②:景気後退が現実化する(実体で確認)

先行指標で見えた変化が、実体(生産・売上・投資)に表れているかを確認する局面です。
ここで大事なのは単月の上下ではなく「続いているか」です。

優先して見る(先に)

  • ISM(50割れ・滞在)
  • 耐久財受注(設備投資の気配)
  • 小売売上(家計の強さ確認)

補助(確認用):新規失業保険申請(雇用への波及が始まったかの早期確認)

失業率が明確に悪化してからでは、投資判断は後追いになりやすい。
先に“実体の弱さ”で確認し、雇用は追認に回す。

5. 局面③:底打ちを探る(最難関)

底打ちは「良くなる」ではなく、まず悪化が止まるところから始まります。
だからこの局面のキーワードはピークアウト(悪化のピークを越えたか)です。

優先して見る(先に)

  • 新規失業保険申請(悪化のピークアウトを探す)
  • ISMの改善方向(底の形がVか、長引くか)
  • 消費者心理の下げ止まり
※GDPは「景気の説明」には向くが、投資判断の初動材料にはなりにくい

「数値が悪い」ことと、「悪化している」ことは別。
投資で拾いたいのは“悪さの加速が止まったサイン”です。

まだ見なくていい(後で):GDP(四半期で遅い)や、CPI単体の細かい上下。
まずは「悪化が止まったか」を週次・月次で拾います。

6. 局面④:回復が広がる(まだ疑われやすい)

多くの人が「もう遅いのでは?」と感じやすい局面ですが、実務では回復初動であることが多い。 ポイントは「改善が続くか」「広がるか」です。

優先して見る(先に)

  • ISM(50超えの定着)
  • 雇用の改善(雇用者数の伸び・解雇の落ち着き)
  • 企業利益・マージン(企業の体力回復)

まだ見なくていい(後で):短期的なCPIのブレや、単月のGDP。

7. 局面⑤:過熱・インフレ警戒(“強い”の副作用を見る)

「景気が強い=安心」ではなく、強いがゆえにインフレ再燃・金融引き締めが問題になる局面です。
この局面の基本は、PPI → CPIの順で「川上の圧力」を先に確認すること。

優先して見る(先に)

  • PPI(川上のコスト圧力)
  • サービスCPI(粘着的になりやすい)
  • 賃金指標(インフレの持続力)

ここは「強さを喜ぶ局面」ではなく、
行き過ぎ(=金融政策が厳しくなる種)がないかを点検する局面。

8. 局面別・早見表(最終テンプレ)

局面 最優先(先に見る) 補助(迷ったら) まだ見なくていい(後で)
① 減速初動 消費者心理(期待) ISM新規受注・地区連銀 失業率 / GDP / CPI単体
② 後退現実化 ISM(50割れ・滞在) 耐久財 / 小売売上 CPIの細かい上下
③ 底打ち 新規失業保険(ピークアウト) ISM改善 / 消費者心理下げ止まり GDP(結論は遅い)
④ 回復 ISM 50超え定着 + 雇用改善 企業利益・マージン CPI単体(主役になりにくい)
⑤ 過熱 PPI(川上) 賃金 / サービスCPI GDP(確認として後)

9. 迷わないための運用ルール(初心者→中級の橋渡し)

  1. 局面を1つに決め切らない:迷うときは「①寄り/②寄り」のように“寄り”で運用
  2. 指標は3つだけ先に見る:最優先+補助から合計3つ(過剰に追わない)
  3. 単月で結論を出さない:「続いているか」「方向が変わったか」を重視
  4. “まだ見なくていい”を守る:見た瞬間にニュースの強弱に振り回されやすい

章末まとめ:指標は「当てる」より「並べ替える」

経済指標は、未来を当てにいくための道具ではありません。

本当に重要なのは、今どの局面にいて、どの順番で変化が波及しているのかを整理することです。 企業・雇用・消費・物価は同時には動かず、見るべき指標は局面ごとに入れ替わる

だからこそ、「全部を見る」必要はありません。 むしろ今は何を見なくていいかを決めることが、判断の精度を高めます。

この章で整理した早見表は、相場環境が変わっても使い回せる判断の土台です。 次にやるべきことは、その時点のデータを当てはめてみること。 正解を探すのではなく、「どこにいるか」を確認するためのチェックリストとして使ってください。

◀ 前へ 第5章:物価は最後に動く【PPI → CPI】 特別講座TOPへ戻る

▶ 実データで読む「今の相場局面」

雇用・物価・センチメントの最新データを使い、
「なぜ株価は下落していないのか?」を構造的に分析しています。

noteで読む