インフレ・割引率・バリュエーションをつなぐ視点
株式市場を見ていると、「金利が上がると株は下がる」という説明をよく耳にします。しかしこの理解は、半分は正しく、半分は不十分です。
なぜなら、投資判断に本当に効いているのは名目金利そのものではなく、「実質金利」だからです。
本記事では、投資初心者〜中級者向けに、以下のポイントを構造的に整理します。
- 名目金利と実質金利の違い
- なぜ実質金利が株価に強く影響するのか
- グロース株とバリュー株への影響差
- 投資家がどう実務に使うべきか
1. 名目金利と実質金利の違い
【名目金利とは】
名目金利とは、私たちが日常的に目にする「表面上の金利」です。銀行預金金利、国債利回り、政策金利などがこれに該当します。
【実質金利とは】
実質金利とは、インフレ(物価上昇)を考慮した後の、本当の金利です。お金の額面ではなく、「購買力が増えたかどうか」を表します。
実質金利 = 名目金利 − 期待インフレ率
名目金利が5%でも、インフレ率が6%なら、実質金利はマイナスです。この場合、資産は「増えているようで、実は減っている」状態になります。
2. なぜ実質金利が株価に効くのか
株価は理論的には、将来生み出されるキャッシュフローを現在価値に割り引いたものです(DCF)。このとき使われる割引率の土台にあるのが、実質金利です。
- 📉 実質金利が低い:将来利益の価値が大きく評価される
- 📈 実質金利が高い:将来利益の価値が小さく評価される
つまり、株価のバリュエーション(PERなど)は、実質金利の水準と切っても切れない関係にあります。
3. 実質金利が低い(マイナス)局面
「現金を持っているだけで、価値が減る」という状態
そのため投資家は、以下の行動をとります。
- 現金を嫌い、株式・不動産などのリスク資産へ資金を移動させる
- 将来成長への期待を強く評価する
結果として、高PERのグロース株でも正当化されやすい環境が生まれます。2020〜2021年の株価急騰は、まさにこの構造でした。
4. 実質金利が高い局面
実質金利がプラスで高くなると、状況は逆転します。
- 安全資産(国債や預金)を持つだけで購買力が増える
- リスクを取る必要性が下がる
- 将来の成長より「今の確実性」が重視される
この局面では、株式全体が割引かれやすく、特にグロース株は逆風を受けます。
5. グロース株とバリュー株への影響差
👉 重要なのは、「金利上昇=即グロース売り」ではないという点です。
本質は、実質金利がどこからどこへ動いているかです。
6. 投資家が見るべき実務指標
① TIPS利回り(実質金利)
米国の物価連動国債(TIPS)の利回りは、市場が要求する実質金利そのものです。特に「10年TIPS利回り」は、株式バリュエーションの土台として有用です。
② ブレークイーブン・インフレ率(BEI)
名目国債利回り − TIPS利回り = 市場の期待インフレ率。
「インフレがどうなると市場が考えているか」を把握するために重要です。
7. 投資家・観察者が持つべき視点
- 名目金利だけで判断しない
- 必ずインフレとセットで考える
- 短期の数字より、実質金利のトレンドを見る
- バリュエーション調整か、利益悪化かを切り分ける
実質金利は、「株価の天気予報」ではありません。しかし、地盤(前提条件)を理解するための重要な座標軸です。
まとめ
- 投資判断に効くのは名目金利ではなく実質金利
- 実質金利は株式バリュエーションの土台
- グロース株は実質金利変動に敏感
- 重要なのは水準より「変化の方向」
ニュースで「金利」という言葉を聞いたら、「それで実質金利はどう動いているのか?」この一歩踏み込んだ視点を持てるかどうかが、長期投資では大きな差になります。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の投資行動を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
この記事では、金利の一側面(長期金利/実質金利/カーブ形状など)を切り出して解説しました。
ただし投資判断では、 「どの金利が、どんな理由で動いているのか」を 資産クラス全体との関係で俯瞰することが重要になります。
