INPEX(1605):「国策」と「現場力」を併せ持つ、日本唯一のエネルギー・オペレーター

【企業図鑑】INPEX Corporation
脱炭素時代においても国家のエネルギー安全保障を支える“操業する資源会社”の正体

この企業に注目する理由

── 「投資家」ではなく「操業者(オペレーター)」であるという希少性

日本の商社の多くが資源権益への「投資」にとどまる中、INPEXは自ら油ガス田を探し、掘り、生産設備を建設・運営する「オペレーター」としての能力を持っています。

オーストラリアの巨大プロジェクト「イクシス(Ichthys)」を筆頭に、自社でコントロールできる巨大なキャッシュフロー源を持っていること。そして、その収益を次なる「脱炭素エネルギー(水素・アンモニア・再エネ)」へ還流させる構造を持っている点が、長期的な生存力の源泉です。

🛢️ 第1章:どんな企業なのか(輪郭と事業構造)

── 「イクシス」という巨艦と、次世代へのポートフォリオ転換

INPEXの収益の柱は、オーストラリアでのLNG(液化天然ガス)プロジェクト「イクシス」です。ここで生産されたガスはパイプラインで運ばれ、液化されて日本などへ輸出されます。この「イクシス」からのキャッシュフローが、現在の同社の強固な財務基盤を支えています。

さらに、アブダビ(UAE)などの油田権益や、国内の天然ガスパイプライン網も安定収益源です。

最新の動向(2025年-2026年):
2025年12月期第3四半期は、イクシスのメンテナンス完了により生産体制が正常化し、通期利益予想を3,900億円へ上方修正するなど、足元の稼ぐ力は健在です。 また、2026年1月には、長崎県五島市沖で国内初となる「浮体式洋上風力発電所」の商用運転を開始しました。これは、同社が化石燃料一本足打法から、再生可能エネルギー事業者へと脱皮しつつあることを示す象徴的な事例です。

💡 第2章:なぜ特別なのか(競争優位の源泉)

単なる資源会社ではなく、日本という国家のエネルギー戦略と不可分な関係にある点が、同社の最大の特異性であり強みです。

🔍 深掘り:技術的知見と「黄金株」の存在

  • オペレーター能力という参入障壁: 地下数千メートルにある資源を探し当て、洋上の巨大プラントで処理し、タンカーで運ぶ。この一連の工程を「主体者」として管理できる日本企業はINPEXのみと言えます。これにより、他社への委託費を抑え、プロジェクトの主導権を握ることができます。
  • 国家によるバックアップ: 経済産業大臣が保有する「黄金株(拒否権付種類株式)」の存在は、敵対的買収からの防衛壁となると同時に、同社が日本のエネルギー安全保障の中核であることを意味します。これにより、地政学リスクの高い地域でも、日本政府の外交力を背景に交渉が可能となります。
  • 国内ガスインフラの独占性: 新潟県から首都圏・静岡へと伸びる全長約1,500kmのガスパイプライン網を保有しており、国内ガス供給においても高いスイッチングコストと安定した基盤を持っています。
構造的な強み(要約)
  • 長期契約による価格安定性:LNGの多くは長期契約に基づき販売されるため、短期的な市場価格の乱高下に左右されにくい構造を持っています。
  • 地下技術の転用:石油・ガス開発で培った「地下の構造を見る技術」は、CO2を地中に埋めるCCS(CO2回収・貯留)や地熱発電にそのまま転用可能であり、脱炭素時代における独自の武器となります。

⚙️ 第3章:課題と向き合い方(トランジション戦略)

最大の課題は「脱炭素」です。化石燃料への依存度が高い同社にとって、これは存続に関わる問題です。しかし、INPEXはこれを「撤退戦」ではなく「事業転換の好機」と捉えています。

🤔 「責任あるトランジション」とは何か

世界は明日すぐに化石燃料をゼロにはできません。INPEXは「INPEX Vision 2035」において、以下の現実的な解を示しています。

  • ガスシフトとCCS: 石炭より環境負荷の低い天然ガス(LNG)を「移行期の現実解」と位置づけ、さらにそこで排出されるCO2をCCS技術で地中に封じ込めることで、クリーンなガス供給を目指しています(アバディLNGプロジェクトなど)。
  • 新エネルギーへの投資: 稼いだキャッシュを、水素・アンモニア、再エネ、そしてメタン排出削減技術へ集中的に投資しています。五島市の洋上風力はその第一歩です。
  • 株主還元の強化: 化石燃料事業の将来不安に対するプレミアムとして、総還元性向50%以上、累進配当(減配しない)を掲げ、投資家をつなぎとめる明確な意思表示を行っています。

🌿 第4章:未来像(2035年の姿)

INPEXが描く2035年の姿は「エネルギーのデパート」です。

事業規模の拡大:
インドネシアの「アバディLNGプロジェクト」が2030年代初頭に稼働すれば、イクシスに次ぐ第二の巨艦となります。これにより、2035年には事業規模(営業CF)を2024年比で60%拡大させる計画です。

クリーンエネルギーの担い手:
同時に、GHG排出原単位を2019年比で60%削減することを目指しています。水素やアンモニアの供給、CCSによるCO2吸収ビジネスが収益の柱として育ち、単なる「石油会社」から「総合エネルギー企業」への変貌を遂げているでしょう。

まとめ:この企業を一言で言うなら

INPEXは、化石燃料という「現在の血液」を流しながら、
脱炭素という「未来の血管」を自ら構築する、エネルギーの巨大な心臓である。

エネルギーが必要とされる限り、その形が変わろうとも、
国家と産業を支えるインフラとしての地位は揺るがない構造にあります。

企業価値を「構造」から考える

企業の強さは、売上や成長率だけで決まるものではありません。
どこに組み込まれ、何によって支えられているか という構造が、 長期的な価値を左右します。
▶ 日本株 企業構造図鑑
ビジネスモデル・制度・ノウハウなど、 企業の土台となる構造から読み解く企業分析をまとめています。