実在企業を使った企業分析の例

実践編:決算短信から投資判断までの流れ ― トヨタ自動車 (7203) 決算分析 ―

ここでは、実際の上場企業の決算短信を使い、
「数字をどう読み、どう投資判断につなげるか」を実践形式で整理します。

今回の題材はトヨタ自動車(2026年3月期 第2四半期 決算短信)です。

📋今回の企業分析の流れ(実践4ステップ)

1 連結業績で「会社全体の方向性」を確認
2 セグメント情報で「どの事業が稼いでいるか」を把握
3 キャッシュ・フローで「本当に強い企業か」を見極める
4 数字を言語化し、投資判断へ落とす

① 連結業績を見る(まずは全体像)

最初に確認するのは、決算短信の連結業績(累計)です。
ここでは細かい分析はせず、「全体がどういう状況にあるか」を把握します。

トヨタ 連結業績

出所:トヨタ自動車 2026年3月期 第2四半期 決算短信

  • 売上収益は前年同期比で増加(増収)
  • 営業利益・親会社帰属純利益は前年同期比で減少(減益)
重要なのは「なぜ減益なのか」です。

決算短信の特記事項によると、
米国における関税政策の影響として、通期で約1兆4,500億円の営業利益押し下げ要因が織り込まれています。
中間期だけでも、その影響は約9,000億円に達しています。

つまり今回の減益は、事業そのものの失速というよりも、
外部環境(関税)による一時的な利益圧迫の側面が強いと整理できます。

② セグメント情報でビジネスモデルを理解する

次に、どの事業が利益を生み出しているかを確認します。

トヨタ セグメント情報

出所:トヨタ自動車 2026年3月期 第2四半期 決算短信

表を見ると、利益の大半を自動車事業が占めていることが分かります。

セグメント構成比グラフ
  • 自動車事業:収益の中核
  • 金融事業:安定収益だが補助的
  • その他:規模・影響ともに限定的
トヨタは依然として「自動車が稼ぎ頭の企業」だと整理できます。

③ キャッシュ・フローで「本当の稼ぐ力」を確認する

利益が出ていても、実際に現金が残っているとは限りません。
そこで確認するのが、キャッシュ・フロー計算書です。

キャッシュ・フロー計算書

出所:トヨタ自動車 2026年3月期 第2四半期 決算短信

営業キャッシュ・フローを見る

まず確認するのは営業活動によるキャッシュ・フローです。
これは、本業でどれだけ現金を稼いだかを示します。

  • 営業活動によるキャッシュ・フロー:
    2,944,609 百万円(約2.9兆円)
トヨタは本業だけで、非常に大きな現金を生み出しています。

フリーキャッシュフローの正しい考え方

ここで注意が必要です。
よくある説明では、

営業CF − 投資CF = フリーキャッシュフロー

と紹介されることがありますが、これは簡易的な考え方です。

投資CFには、
事業に必要な設備投資と、
金融事業・資金運用的な投資が混在しています。

そこで今回は、本業の実力を見るためのフリーCFとして、
以下の計算を用います。

フリーキャッシュフロー(FCF)
営業活動によるCF − 事業に必要な設備投資(Capex)

設備投資(Capex)を抜き出す

決算短信の投資活動によるキャッシュ・フローから、事業継続・成長に必要な投資だけを抜き出します。

  • 有形固定資産の購入(賃貸資産を除く):△957,692 百万円
  • 無形資産の取得(ソフトウェア・特許など):△151,495 百万円

・ 設備投資合計(Capex):約1.11兆円

※ 賃貸資産の購入や、公社債・株式の購入は、
金融事業・資金運用の性質が強いため、
本業のフリーCF計算からは除外しています。

フリーキャッシュフローを計算する

フリーキャッシュフロー(概算)

2.94兆円(営業CF) − 1.11兆円(Capex)
= 約1.8兆円

キャッシュの流れ図
設備投資を十分に行ったうえで、これだけの現金が残る点は、長期投資家にとって非常に心強い材料です。

④ 数字を投資判断に落とす

  • 短期業績:外部要因で一時的に減益
  • ビジネスモデル:自動車依存は高い
  • 財務体質:非常に健全
・ 以上から、トヨタは
「短期の数字に振り回されず、安定性を評価する長期投資向き銘柄」
と判断するのが自然です。

まとめ:決算短信はこう使う

  • ✔️増減だけでなく「理由」まで読む
  • ✔️一時要因と構造要因を切り分ける
  • ✔️判断は長期視点で行う

・ 決算短信は未来を考えるための材料です。

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