見かけの回復の裏で進む、ドル支配・シャドーバンク化・分断の連鎖
📉 1. 導入:崖っぷちの世界経済(On the Brink)
2025年、世界経済は「見かけ上の回復」と「構造的な脆弱性」の狭間にあります。UNCTAD(国連貿易開発会議)の最新報告によると、世界の実質GDP成長率は2024年の2.9%から、2025年には2.6%へ減速すると予測されています 。
一見すると、2025年前半の貿易データは好調に見えます。しかし、これは米国などによる関税引き上げを見越した「駆け込み需要(Frontloading)」と、AI関連投資による一時的なブーストに過ぎません 。この勢いが剥落する2026年に向けて、世界はより厳しい調整局面(New Normal)に入ろうとしています。
本記事では、3つの最新レポートに基づき、「貿易の金融化」「グローバル・サウスの台頭」「コモディティ市場の変質」という3つの視点から、2025年以降の市場構造を読み解きます。
🌏 2. 業界の全体構造:重心の移動と分断
世界経済の「重心」は確実に南へ移動していますが、金融システムは依然として北(先進国)に集中しており、この「ねじれ」が新たなリスクを生んでいます。
貿易構造:グローバル・サウスの躍進(Trade Shift)
- シェアの逆転:2024年時点で、グローバル・サウス(発展途上国)は世界の財貿易の44%、GDPの42%を占めています 。
- 南南貿易の拡大:発展途上国同士の貿易(南南貿易)は過去30年で2倍以上に拡大しました 。特にアジア・オセアニア地域がこの成長を牽引しています。
- サービス貿易の遅れ:一方で、高付加価値な「サービス貿易」におけるサウスのシェアは依然として30%未満に留まっており、デジタル・金融分野での格差が浮き彫りになっています 。
金融構造:ドルの支配と新たなリスク(Financial Dominance)
- 貿易と金融の不一致:モノの貿易は分散化していますが、決済・融資を行う金融インフラは依然として米ドルと欧米金融機関に集中しています。世界の証券市場(株式・債券)の時価総額の約半分は米国が占めています 。
- シャドーバンキング化:大手コモディティ商社が、銀行に代わって「金融仲介機能」を担うようになり、規制の目が届かないところでリスクが膨張しています(後述) 。
🚀 3. 成長ドライバーと阻害要因
2025年の貿易を支えたのは「AI」と「駆け込み需要」でしたが、その裏で「貿易コストの上昇」と「気候変動債務」が重石となっています。
一時的なブーストと反動減
📈AI投資と関税対策
2025年前半、世界の財貿易は約4%成長しました。これは、AI関連のハードウェア需要(台湾からの輸出増など)に加え、予想される関税引き上げ前に在庫を確保しようとする「駆け込み輸入」が米国を中心に急増したためです 。
- 反動減のリスク:この「前倒し」効果が剥落する2025年後半から2026年にかけて、貿易成長率は鈍化すると予測されています 。
「気候変動×債務」の悪循環
気候変動は物理的な被害だけでなく、金融的な打撃も与えています。気候リスクが高い国々(V20諸国など)は、そのリスクプレミアムとして、過去10年で累計2,120億ドル(約32兆円)もの追加利払いを強いられています 。これが財政を圧迫し、さらなる気候対策投資を阻害する「負のスパイラル」に陥っています。
🏭 4. 主なプレイヤー:コモディティ商社の変貌
エネルギーや食料を扱う巨大商社(ABCD等)は、単なる「運び屋」から「巨大な金融機関(シャドーバンク)」へと変貌を遂げています。
| 企業群 | 役割の変化 | リスクと特徴 |
|---|---|---|
| ABCD (ADM, Bunge, Cargill, Louis Dreyfus) | 金融仲介業へシフト | 収益の75%以上が、物流ではなく「金融仲介・デリバティブ」から得られるようになっています 。 |
| Glencore / Trafigura | エネルギー・鉱物 | 2022年以降、合計570億ドル以上の純利益を計上。市場のボラティリティ(変動)を収益化しています 。 |
| COFCO / Wilmar | 新興プレイヤー | アジア発の巨大商社。ABCDの独占に挑戦しつつ、同様に金融化を進めています 。 |
「見えない銀行」としての商社
- 構造化ファイナンスの利用:大手商社は、保有する在庫や売掛金を担保に証券化商品を組成し、資本市場から資金を調達しています。2024年には主要11社のうち6社がこの手法を採用しています 。
- 規制の空白地帯:これらは銀行規制(バーゼルIII)の対象外であるため、巨大なレバレッジ(借入)をかけて市場を動かすことが可能です。一社の破綻が金融システム全体に波及するリスクを孕んでいます 。
⚠️ 5. リスクと課題
世界経済は「地政学」「金融」「気候」の三重苦に直面しています。
課題1:貿易政策の不確実性と関税
- 政策の武器化:関税や輸出規制が頻繁に変更され、企業の予測可能性を奪っています。特に米国の対中関税や、それに対する報復措置は、サプライチェーンの再編を強制しています 。
- 中小企業への打撃:大企業はサプライチェーンの多角化で対応できますが、中小企業や低所得国にはその余力がなく、市場から締め出されるリスクがあります 。
課題2:金融サイクルの波及
- ドルの逆流:米国の金利政策やドル高は、即座に新興国の貿易金融コストを押し上げます。ドルが1%上昇すると、世界の貿易量は数ヶ月かけて約0.6%減少するというデータがあります 。
🔮 6. 今後の展望:2026年に向けて
「成長の鈍化と、新たな多国間主義の模索。」
📊短期予測
2026年の世界経済成長率は2.6%と低迷が続く見込みです 。駆け込み需要の反動に加え、地政学的な分断コストが表面化するためです。
- クリエイティブ・デジタル経済:物理的な財の貿易が停滞する一方、クリエイティブ・サービスやデジタル・サービス貿易は力強い成長を続けるでしょう 。
- ネットワーク型多国間主義:従来のWTO中心の体制から、地域協定や有志国連合(BRICSプラスなど)を組み合わせた、より柔軟な「ネットワーク型」の協力体制への移行が進むと考えられます 。
🪙 7. 投資家視点:見るべきポイント
「物理的なモノの動きだけでなく、背後にある”金融の動き”を注視せよ。」
💡投資判断の視点
- クリティカル・ミネラル(重要鉱物):エネルギー転換に伴い、化石燃料から再生可能エネルギー関連の鉱物(リチウム、コバルト等)へ、貿易の主役が交代しています。これらを握るグローバル・サウス諸国の動向が鍵となります 。
- サービスのデジタル化:製造業よりも、デジタル配信可能なサービス(ソフトウェア、コンサルティング、エンタメ)に関連する企業やプラットフォームは、関税リスクの影響を受けにくく、成長余地があります。
- 地域ハブの活用:分断が進む中、ベトナム、メキシコ、インドなど、地政学的な「つなぎ目」に位置する国々(コネクター・エコノミー)への投資や拠点化が重要性を増します。
📚 8. 関連テーマ・参照資料
本記事は以下のUNCTAD(国連貿易開発会議)2025年版レポートを基に作成されました。
- Trade and Development Report 2025: “On the brink: Trade, finance and the reshaping of the global economy”(世界経済の構造転換とリスク)
- Global Trade Update (Dec 2025): 足元の貿易統計と短期予測
- Handbook of Statistics 2025: 長期的な統計データ集
出典・参考情報源
- UNCTAD (2025). Trade and Development Report 2025.
- UNCTAD (2025). Global Trade Update (December 2025).
- UNCTAD (2025). Handbook of Statistics 2025.
👉 では、日本はこの変化にどう向き合っているのでしょうか。
日本は「グローバル・サウス」を、単なる新興市場として見るのではなく、
成長・資源・金融を一体で考える中長期戦略の軸として捉え直しています。
その動きが具体的にどのような形で進んでいるのかは、以下の記事で詳しく整理しています。
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🔗
TICAD9を経て加速する日本のアフリカ戦略
人口成長と制度づくりを軸に、日本企業がどのように「共創」を進めているのかを解説 -
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本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の投資行動を推奨するものではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。
著者情報
投資歴25年の個人投資家Sakumiが執筆。初心者向けに実体験に基づいた投資ノウハウや口座選びのポイントを発信中。
