パワー半導体は「成長産業」なのになぜ儲からないのか

EV・AI需要は本物──それでも儲からない。
Wolfspeed破綻、ルネサス撤退、中国勢台頭から読む
パワー半導体業界の新勢力図と生存条件

EV(電気自動車)やAIデータセンターの拡大により、パワー半導体(SiC・GaN)の需要そのものは確実に拡大しています。

それにもかかわらず、2025年以降この業界では破綻・撤退・再編が相次ぎました。

本記事では、「なぜ成長市場で利益が出ないのか」を構造面から整理します。

1. 2025年、業界を襲った転換点

2025年、パワー半導体業界は明確に「成長期待フェーズ」から「淘汰フェーズ」へ移行しました。象徴的だったのが以下の2つです。

  • WolfspeedのChapter11申請(米SiCウェハ最大手)
  • ルネサスのSiC内製撤退判断

技術的には不可欠なSiC/GaNですが、価格と供給構造が利益を破壊し始めています。

2. 業界構造の変化:素材優位から調達優位へ

かつては「高品質ウェハを作れる企業」が主導権を握っていました。しかし現在は、安価なウェハを安定調達できる企業が競争優位を持ちます。

上流|SiCウェハ:中国勢の台頭

  • 中国メーカー(TanKeBlue、SICC)が急拡大
  • ウェハ価格は1年で約30%下落
  • 「素材で稼ぐ」モデルが成立しにくくなった

中流|デバイス製造:再編の主戦場

  • IDM(垂直統合)とファブレス化の二極化
  • 規模と稼働率を維持できる企業のみ生存
  • Infineon・STが相対的優位

下流|EV・AI用途:価格圧力の源泉

  • EV価格競争により部品単価が低下
  • 中国製SiCの採用が急増
  • 性能より「総コスト最適化」が優先

3. 需要は本物、しかし供給が多すぎる

EVの800V化、AIデータセンターの省電力化により、パワー半導体の物理的必要性は揺らいでいません。問題は、供給能力が需要を上回り始めた点です。

● EV|SiCは必須、しかし利益は出ない

  • SiC採用は拡大するが単価は下落
  • 後発組は投資回収が困難
  • ルネサスは「撤退」を選択

● AI|GaNがプレミアム市場を形成

AIサーバー電源ではGaNが高効率・高単価領域を形成。SiCとは異なり、まだ価格競争が限定的です。

4. 主要企業の立ち位置

企業 立ち位置 評価軸
Wolfspeed 再建中 技術力は高いが資本構造が弱い
Infineon 勝ち組 規模と調達力
中国勢 破壊者 価格・国家支援
ローム 独自路線 品質特化・投資回収が課題

5. 中期展望(3〜5年)

  • SiCはコモディティ化が進行
  • GaNは用途拡大余地あり
  • M&Aと撤退は続く

6. 投資家視点の整理

「素材ではなく、構造を見る」

  • 営業CFが出ているか
  • 中国価格競争への耐性
  • 撤退判断ができるか

本記事は特定銘銘柄の推奨を目的とせず、業界構造の理解を目的としています。