第一三共(4568):次世代ADCで世界を変える。がん治療のゲームチェンジャー

【企業図鑑】Daiichi Sankyo Co., Ltd.
「創薬」から「プラットフォーム」への進化
がん治療の歴史を変える技術「ADC」で世界を席巻するイノベーター

この企業に注目する理由

── 偶然のヒットではなく、「再現性のある技術基盤」を確立した

製薬業界はしばしば「宝くじ」に例えられますが、第一三共の強みは、一つの薬のヒットに依存するのではなく、薬を作るための「共通基盤技術(DXd-ADC)」自体を確立した点にあります。

主力薬「エンハーツ」の爆発的な成長に加え、同じ技術を応用した第2、第3の矢が控えています。アストラゼネカやメルクといった世界のメガファーマ(巨大製薬企業)が、販売権を得るために数兆円規模の契約を結ぶほど、その技術は「代替不可能」な地位を築きつつあります。

🔬 第1章:どんな企業なのか(輪郭と事業構造)

── 「ロキソニン」の会社から「グローバル・オンコロジー(がん)」企業へ

かつては生活習慣病薬や大衆薬(ロキソニン等)が中心の国内製薬企業でしたが、現在は売上の過半数を海外、特に「がん領域」が稼ぎ出す構造へと劇的に変貌しました。

2025年3月期 第2四半期実績(構造の変化):
  • 売上収益:9,864億円(前年同期比 19.3%増)
  • がん領域売上:5,798億円(前年同期比 35.8%増)。全売上の約59%を占めるまでに成長しています。
  • 海外売上比率:65.5%。もはや日本企業という枠組みを超え、グローバル企業としての体裁を整えています。

特に主力薬「エンハーツ」は、乳がん治療の新たな標準治療(スタンダード)としての地位を固め、肺がんや胃がんへと適用を拡大し続けています。

💡 第2章:なぜ特別なのか(競争優位の源泉)

第一三共の強みは、抗体薬物複合体(ADC)と呼ばれる技術領域において、他社が容易に模倣できない独自の「設計図(プラットフォーム)」を持っていることです。

🔍 深掘り:独自技術「DXd-ADC」の革新性

ADCとは、がん細胞を狙い撃ちする「抗体」に、強力な「薬物」を結合させた、いわば「誘導ミサイル」のような薬です。第一三共の「DXd-ADC」は、以下の点で構造的に優れています。

  • 薬物の搭載量:従来のADCに比べて、抗体1つに対してより多くの薬物を結合させることに成功し、高い攻撃力を実現しました。
  • バイスタンダー効果:狙ったがん細胞だけでなく、その周囲の不均一ながん細胞も巻き込んで死滅させる効果があり、これが治療効果を劇的に高めています。
  • プラットフォーム化:「薬物」と「結合技術」が共通化されているため、弾頭(抗体)を付け替えるだけで、異なる種類のがん治療薬を次々と開発する「Plug and Play(プラグ・アンド・プレイ)」が可能です。
構造的な強み(要約)
  • メガファーマとの戦略的提携:アストラゼネカ(AZ)やメルク(MSD)と提携し、開発資金・治験ネットワーク・販売体制を共同活用。自社だけでは時間のかかる領域も、パートナー企業と組むことで実用化までのプロセスを効率化しています。
  • 高い参入障壁:ADCの製造は極めて複雑で高度なノウハウが必要です。製造キャパシティの確保自体が競争優位となっており、今後も段階的に設備投資を継続する方針です。

⚙️ 第3章:課題と向き合い方(外部環境への対応)

飛ぶ鳥を落とす勢いですが、死角がないわけではありません。急速な成長ゆえの「歪み」や、競合の追い上げがリスク要因となります。

🤔 投資家が注視すべきリスク

  • 「エンハーツ」一本足の懸念:現在の成長はエンハーツに強く依存しています。万が一、重篤な副作用(間質性肺疾患など)の管理に失敗すれば、その影響は甚大です。
  • 開発競争の激化:ADCの成功を見て、ファイザーやアッヴィなどの世界的大手が巨額買収で同領域に参入しています。技術的優位性を維持し続けられるかが問われます。
  • 次世代薬の開発状況:第2の柱と期待される「Dato-DXd」の肺がん向け臨床試験結果において、一部の患者層で期待された有意差が出なかった事例があり、規制当局の承認プロセスが注目されています。

これに対し、同社は「3 and Alpha」戦略を掲げ、エンハーツ、Dato-DXd、HER3-DXdの3製品を柱にしつつ、さらに次の技術(次世代ADCや放射性医薬品など)への投資を加速させ、リスク分散を図っています。

🌿 第4章:未来像(中期経営計画と2030年の姿)

第一三共は「2025年度にグローバル・オンコロジー・トップ10入り」を目前にしており、さらにその先の「2030年」を見据えています。

圧倒的な収益力への転換
2025年度には、がん領域売上収益1兆円以上(当初計画の6,000億円を大幅超過)を見込んでいます。この潤沢なキャッシュフローを次の研究開発(R&D)に再投資し、成長の複利効果を狙うサイクルに入っています。

モダリティ(治療手段)の多様化
ADCで得た資金と知見を活かし、次の10年を支える技術として、放射性医薬品や二重特異性抗体など、ADC以外の新規モダリティの開発にも着手しています。単なる「ADCの会社」で終わらないための布石を打っています。

まとめ:この企業を一言で言うなら

がん治療というハードウェアの中に、
「DXd-ADC」という“中核プロセッサ”を供給するプラットフォーマー。

薬を「発明」するだけでなく、それを量産可能な「技術基盤」へと昇華させた点に、他社が容易に追いつけない構造的な強みがあります。

企業価値を「構造」から考える

企業の強さは、売上や成長率だけで決まるものではありません。
どこに組み込まれ、何によって支えられているか という構造が、 長期的な価値を左右します。
▶ 日本株 企業構造図鑑
ビジネスモデル・制度・ノウハウなど、 企業の土台となる構造から読み解く企業分析をまとめています。