【企業図鑑】Nu Holdings Ltd. (NU)
ラテンアメリカの金融「再発明」
1億人超のデータを武器に、既得権益の岩盤を溶かすデジタル銀行
この企業に注目する理由
── 「高コスト・低アクセス」の銀行システムを、技術で「低コスト・高アクセス」へ構造転換させた
ラテンアメリカの銀行業界は長年、少数の大手行による寡占状態で、高額な手数料と高い金利が常態化していました。人口の多くが銀行口座すら持てない中、Nuは「店舗を持たない」デジタル完結モデルで参入しました。
物理的な店舗網という「負債」を持たないことで、顧客1人あたりの維持コストを極限まで下げ(約0.9ドル)、従来は採算が合わなかった低所得層までも顧客化することに成功しています。この構造的なコスト優位性が、長期的な競争力の源泉です。
📱 第1章:どんな企業なのか(輪郭と事業構造)
── 世界最大級のデジタル銀行プラットフォーム
Nubank(Nu Holdings)は、ブラジル、メキシコ、コロンビアを中心に展開するデジタル専業銀行です。2025年第3四半期時点で、顧客数は全世界で1億2700万人に達しています。
- 事業セグメント: クレジットカード、個人ローン、預金口座、投資、保険などをアプリ一つで提供。収益は「金利収入(貸付)」と「手数料収入(カード決済手数料やサブスクリプション)」の2本柱です。
- 地理的ポートフォリオ: ブラジルでは成人人口の60%以上(1億1000万人超)をカバーする圧倒的シェアを持ち、利益創出のエンジンとなっています。一方で、メキシコ(1310万人)やコロンビア(約400万人)を「次のブラジル」として急成長させています。
売上高は42億ドル(前年比39%増)、純利益は7億8300万ドルと、成長と利益の両立(ROE 31%)を実現しています。特にコロンビアでは顧客数が400万人に達し、ブラジルやメキシコを上回るペースで成長しています。
💜 第2章:なぜ特別なのか(競争優位の源泉)
単なる「便利なアプリ」ではなく、コスト構造そのものが既存銀行と異なります。
📉 深掘り:圧倒的な「低コストオペレーション」
Nuの顧客1人あたりの月間維持コスト(Cost to Serve)は、わずか0.9ドル(1ドル未満)で推移しています。
- 店舗レスの強み: 物理店舗を持つ伝統的銀行は、家賃や人件費などの固定費が重く、低所得者層を相手にすると赤字になります。Nuはこのコストがないため、他行が見捨てた層でも利益を出せます。
- データによる与信: クレジットヒストリー(信用履歴)がない顧客に対しても、独自の行動データを用いてリスクを評価し、少額から与信枠を育てる(Low & Grow戦略)ことで、新たな市場を開拓しています。
- 効率性指標: 銀行の効率性を示すEfficiency Ratio(経費率)は27.7%と、ラテンアメリカの伝統的銀行と比較しても極めて優秀な数値を叩き出しています。
- ✅ 対 伝統的大手銀行(Itau, Bradesco等): 伝統行は「信頼」と「法人融資」に強みがありますが、リテール(個人)向けでは高コスト体質が弱点です。Nuは手数料無料や使いやすいUIで若年層の支持を独占し、将来の富裕層を囲い込んでいます。
- ✅ 対 他のフィンテック(Mercado Pago等): 決済から入ったMercado Pagoに対し、Nuは「銀行(預金・融資)」としての信頼構築に成功しています。コロンビアでの急速なシェア拡大(預金量で国内トップ5入り)がその証左です。
⚠️ 第3章:課題と向き合い方(外部環境への対応)
新興国特有の「規制リスク」と「信用リスク」が常に付きまといます。特にコロンビア市場での動きは、同社の適応能力を試す良いケーススタディです。
🔄 規制の壁にどう向き合っているか
コロンビアには「Usury rate(高利貸し防止の上限金利)」があり、リスクの高い顧客への貸出が制限されています。これに対し、Nuは単に撤退するのではなく、製品設計で対応しています。
- NuControlの導入: 金利制限下でもリスクを管理しつつ貸出を行えるよう、顧客自身が支出をコントロールできる機能を開発。これにより、従来は排除されていた層の40%をカバー可能にしました。
- 金融教育のゲーム化: 「Morada Abre Caminos」などを通じ、信用履歴のない顧客を教育しながら優良顧客へと育成するアプローチをとっています。
- 信用リスク管理: ブラジルでの不良債権比率(15-90日)は4.2%に低下しており、急成長しつつも貸倒れリスクをコントロールできていることが示されています。
🚀 第4章:未来像(Money Platformへの進化)
5年・10年視点で見ると、Nuは単なる「銀行アプリ」から、生活のあらゆる金融ニーズを満たす「マネー・プラットフォーム」へと進化しようとしています。
クレジットカードだけでなく、担保付きローン(Payroll loans)や投資商品へのクロスセルが進んでおり、顧客1人あたりの収益(ARPAC)は月額13ドルを超え、成熟した顧客層では25ドル以上に達しています。
ブラジルで築いた「低コストで高収益」なモデルを、人口規模の大きいメキシコとコロンビアで再現できれば、ラテンアメリカ全体の金融インフラとしての地位は盤石なものになります。
まとめ:この企業を一言で表すなら
銀行の皮を被った「テクノロジー企業」であり、
ラテンアメリカの金融コスト構造を書き換える「修正液」。
物理的な「店舗」を持たず、データという「武器」だけで既得権益の岩盤を崩していく。
その構造的な身軽さが、長期的な生存と利益創出の最大の防御壁です。
企業価値を「構造」から考える
どの市場に組み込まれ、どの制度・ネットワークに支えられているか という構造が、 長期的な価値を左右します。
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