【企業図鑑】IHI Corporation
「回転機械」の技術を核としたエネルギー転換の旗手
航空エンジンの逆風を「構造的独占」で跳ね返す強靭な体質
この企業に注目する理由
── 航空エンジンの不具合すら吸収する「参入障壁」の高さ
IHIは現在、主力である航空エンジン(PW1100G-JM)の品質問題という巨大なリスクに直面しながらも、2025年度において記録的な収益を上げています。これは一見矛盾に見えますが、航空産業特有の「構造」が機能している証左です。
さらに、世界が脱炭素に舵を切る中、燃やしてもCO2が出ない「アンモニア」を燃料として使いこなす技術において、IHIは世界で最も先頭を走っています。現在の収益源(航空)と未来の収益源(アンモニア)の両輪で、産業構造の転換点に位置しています。
🔬 第1章:どんな企業なのか(輪郭と事業構造)
── 「高速回転体」を極めた重工業コングロマリット
IHIの事業は多岐にわたりますが、その技術的コアは「高速で回転する機械(ターボ機械)」にあります。
- 航空・宇宙・防衛:民間航空機エンジン(シェア国内首位)、防衛省向けエンジン、イプシロンロケット等。全社利益の牽引役。
- 資源・エネルギー・環境:ボイラ、ガスタービン、原子力機器。現在は「アンモニア・バリューチェーン」構築へシフト中。
- 社会基盤:橋梁(明石海峡大橋等)、水門、シールド掘削機。インフラの長寿命化ビジネスへ転換。
- 産業システム・汎用機械:車両過給機(ターボ)、熱処理設備、パーキングシステムなど。
※2025年度第2四半期時点では、航空エンジンのスペアパーツ需要増や防衛関連の伸長により、過去最高水準の受注・利益を記録しています。
💡 第2章:なぜ特別なのか(競争優位の源泉)
IHIの強みは、ハードウェアの売り切りではなく、製品ライフサイクル全体(LCP:ライフサイクルパートナー)に関与するビジネスモデルへの転換と、独自技術による市場創出にあります。
🔍 深掘り:「アンモニア燃焼」のゲームチェンジャー
アンモニアは燃えにくく、燃やすと有害なNOx(窒素酸化物)が出るため、燃料としては不向きとされてきました。IHIはこの常識を覆す技術を持っています。
- 専焼技術:石炭火力発電所において、アンモニアを20%混ぜて燃やす(混焼)実証を完了し、将来的には100%(専焼)を目指しています。これは既存の発電所を「捨てずに脱炭素化」できる現実解です。
- バリューチェーン構築:単にバーナーを売るだけでなく、アンモニアの製造・輸送・貯蔵・利用まで一貫したチェーン構築に関与することで、インフラ全体の主導権を握ろうとしています。
- ✅ 航空エンジンのプログラム・シェア:GEやP&Wなどの国際共同開発において「シャフト」や「低圧タービン」など重要部位を担当。一度採用されれば数十年続く部品・整備需要(アフターマーケット)が約束されます。
- ✅ 回転機械の技術横展開:ジェットエンジンの技術を転用してガスタービンや過給機を作るなど、コア技術を複数の産業に応用し、開発効率を高めています。
⚙️ 第3章:課題と向き合い方(外部環境への対応)
最大の懸念事項は、主力である航空エンジン「PW1100G-JM」の品質問題です。
⚠️ PW1100G-JMエンジン問題の構造的意味
エアバスA320neo向けエンジンの一部部品に金属粉末の混入が見つかり、世界中で数百機の運航停止と点検・交換が発生しています。
- 影響:巨額の補償費用が発生していますが、IHIの参加シェア(約15%)に応じた負担で済みます。
- なぜ崩れないか:航空エンジン市場は世界で数社による寡占状態であり、航空会社は他に選択肢がありません(スイッチング不可)。さらに、世界的な旅客需要の回復により、稼働しているエンジンの整備(スペアパーツ)需要が爆発的に伸びており、補償費用を補って余りある利益を生み出しています。
- 対応:改良型である「GTF Advantage」の型式承認を取得し、性能向上と信頼性回復を図っています。
🌿 第4章:未来像(中期経営計画)
「グループ経営方針2023」に基づき、事業ポートフォリオの入れ替えを断行しています。
成長事業への集中:
2025年度には、航空宇宙・防衛やアンモニア関連などの成長分野へ資源を集中させています。一方で、パーキングシステムや農機などの非注力事業は譲渡を進め、筋肉質な体質へ変貌しつつあります。
LCP(ライフサイクルパートナー)への転換:
単に橋やエンジンを売るだけでなく、IoTやAIを活用したモニタリング、メンテナンス提案を行うことで、フロー型からストック型ビジネスへの転換を加速させています。
まとめ:この企業を一言で言うなら
空の覇権を握りつつ、陸のエネルギー革命を仕掛ける
「回転機械」の技術屋集団。
航空エンジンの問題という「痛み」を抱えながらも、それを上回る「基礎体力(独占力)」を持っています。
アンモニア発電が社会実装されるとき、同社は単なる重工メーカーから「グリーンエネルギーのプラットフォーマー」へと変貌するでしょう。
企業価値を「構造」から考える
どこに組み込まれ、何によって支えられているか という構造が、 長期的な価値を左右します。
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