✅ 第2章:「月賦投資」と現代のクレジット経済
1929年8月、大暴落のわずか2ヶ月前。ある雑誌記事が大きな話題となりました。ゼネラルモーターズ(GM)の財務担当だったジョン・ラスコブ氏が執筆した、「誰もが金持ちになるべきだ」という記事です。
彼は「月15ドルの積立投資を20年間続ければ、元本3,600ドルが8万ドルの資産に増える」と試算しました。彼の提案は、自動車ローンで成功した「割賦販売(分割払い)」の仕組みを、株式投資に応用するというものでした。
「トムが200ドル持っていれば、割引会社が300ドルを貸し出し、500ドル分の株を買えるようにする。トムは自動車ローンを返済するのと同じように、この借金を返済すればよい」
この楽観的な提案は、その後の大恐慌を考えると、非常に皮肉な結果となりました。
⚠️ 現代との共通点:BNPL(後払い)という「幻の負債」
現代において、ラスコブ氏の「月賦」に相当するのが、BNPL (Buy Now Pay Later:今買って、後で払う) サービスかもしれません。商品購入時の支払いを後回しにできる便利なサービスです。
しかし、その裏側には懸念すべき状況があります。
- 米国では信用力が最も低い層の約40%がBNPLを利用しており、クレジットカードの債務残高も増加傾向にあります。
- 特に若年層を中心に延滞率の上昇が報告されています。
- 最大の問題は、BNPLが「幻の負債」と呼ばれる点です。これらの債務は伝統的な信用報告書(個人の借金リスト)に表示されにくく、消費者の真の債務状況が見えにくくなっています。
2章の要点:「今買って、後で払う」という楽観論は、実体経済の見えにくいリスク(幻の負債)を生み出す。
✅ 第3章:1920年代の「投資信託」と現代の「ユニコーン」
1920年代後半、投機を加速させた仕組みの一つに「会社型投資信託」ブームがありました。これは、複数の投資信託が「相互に」投資し合う複雑な構造(ファンド・オブ・ファンズ)を持ち、レバレッジ(借入れ)を何重にも増幅させる効果を持っていました。
その代表例が、ゴールドマン・サックス・トレーディング・コーポレーションです。1929年まで急成長しましたが、1932年にはその価値が設立時の35分の1まで暴落しました。
現代にも似たような構造が見られます。ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)に代表される巨大ファンドが、スタートアップ企業(ユニコーン)に大規模な資金を注入し、その企業価値(評価額)を押し上げる仕組みです。
象徴的な事例がWeWorkです。2019年1月には評価額が470億ドルとされましたが、同年9月のIPO(株式上場)延期により、わずか8ヶ月で評価額は80億ドルまで急落しました。
1920年代と現代に共通しているのは、大規模な資金注入が、企業の評価額を「実態の収益性」以上に押し上げてしまう構造です。将来への期待が先行しすぎると、評価の基準そのものが歪んでしまう危険性があります。
3章の要点:過剰な資金注入(期待)が、実態(収益性)とかけ離れた「評価額バブル」を形成する構造は変わらない。
【1929 vs 2025】信用拡大(借金)の比較
| 項目 | 1920年代 | 2025年(現代) |
|---|---|---|
| 高レバレッジ | 証拠金取引(10倍) | レバレッジETF(3倍など) |
| 分割払い | 月賦投資、自動車ローン | BNPL(後払いサービス) |
| 資金調達 | 会社型投資信託(相互投資) | 巨大VCファンド(ユニコーン投資) |
| アクセス手段 | 証券会社のカウンター、電話 | スマホアプリ(手数料ゼロ) |
✅ 第4章:「金融の民主化」という美名の裏側
1920年代も現代も、「誰もが金持ちになれる」という楽観的なメッセージが語られます。金融サービスへのアクセスが拡大し、誰もが投資家になれる「金融の民主化」が実現される、という期待です。
しかし、歴史は、金融へのアクセス拡大が、必ずしも富の平等な分配をもたらすわけではないことを示しています。むしろ、金融リテラシー(知識や判断力)の格差が、新たな不平等を生み出す可能性さえあります。
⚠️ 誰がリスクを負うのか?
1929年の株価暴落(約89%下落)では、信用取引で借金をしていた多くの一般投資家が資産を失い、経済的困窮に陥りました。
現代においても、BNPLのような「見えにくい負債」の存在や、情報の非対称性(金融機関と個人投資家の情報格差)など、根本的な問題は解決されていません。
ゲーム感覚で操作できるアプリや手数料無料のサービスは、一見すると消費者の味方です。しかし、それらが投資に伴う本質的なリスク(=損をする可能性)を軽視させてしまう危険性はないでしょうか。
4章の要点:「金融の民主化」は、利便性の裏側で「リスクの民主化」でもあり、知識格差が損失格差に直結する。
✅ 第5章:歴史が教える「信用革命」の本質
信用(借金)は、経済成長にとって不可欠なエンジンです。企業が設備投資をし、消費者が商品を購入するためには、適切な信用供給が必要です。
しかし、1929年の経験が示すように、過度な信用膨張はバブルを生み出す燃料ともなり得ます。レバレッジ10倍の世界は、一夜にして崩壊する可能性を秘めているのです。
1920年代も現代も、「金融の民主化」という点で共通しています。しかし、アクセスの容易さが、必ずしも豊かさをもたらすわけではないことを歴史は示しています。
【本記事のまとめ】歴史からの教訓
- 信用の「見える化」:便利なサービスの裏側にある構造(借金の仕組み)を理解することが重要です。
- リスクの認識:BNPLのような「見えにくい負債」が、個人の返済能力を超えていないか、社会全体で監視する必要があります。
- 自己責任の重み:最も大切なのは、自分自身のリスク許容度(どれだけ損に耐えられるか)を冷静に見極めることです。
歴史から学ぶべきは、恐怖ではなく「知恵」です。 信用(借金)という強力なツールに振り回されるのではなく、 賢く使いこなすための冷静な視点こそが、 次の時代を生き抜く最大の資産となるでしょう。
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※本記事は歴史的事実と専門家の見解に基づいた分析記事であり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。投資判断は必ずご自身の責任で行ってください。
投資歴25年の個人投資家Sakumiが執筆。初心者向けに実体験に基づいた投資ノウハウや口座選びのポイントを発信中。
