エヌビディアの株価が時価総額5兆ドルを突破し、AI関連銘柄が連日史上最高値を更新する今、あなたは不安を感じていないでしょうか。
「これはバブルなのでは」という疑念と、
「乗り遅れたくない」という焦燥感。
しかし、この光景に見覚えはないだろうか。
その狭間で揺れる投資家は少なくありません。実は100年前の1920年代にも、ラジオや自動車といった革新技術が株価を押し上げ、熱狂の後に90%もの暴落が訪れた歴史があります。
世界最大のヘッジファンド創業者レイ・ダリオ氏は「現在は1929年や2000年のバブルに対して“ちょうど半分”の水準にある」と警告しています。なぜ歴史は“似た景色”を繰り返すのか。過去との比較から、私たちは何を学べるのでしょうか。
この記事からわかること(歴史は韻を踏む)
本記事(全5回シリーズの第1回)では、歴史的なパターン分析に基づき、現在のAIブームが過去のバブルとどう似ているのか、そしてどこが違うのかを解き明かします。
- ✅ レイ・ダリオ氏が「中間地点にある」と警告する真意
- ✅ 1929年と現在に共通する「バブルを形成する3つの要素」
- ✅ エヌビディアと1920年代の「RCA」株の驚くべき類似点
- ✅ 私たちが熱狂の中で失うべきでない「冷静な視点」
✅ 第1章:レイ・ダリオの警告 —「歴史は韻を踏む」の意味
ブリッジウォーター・アソシエイツを率いる著名投資家レイ・ダリオ氏は、近年のインタビューで現在の市場状況について「1929年(世界恐慌)や2000年(ITバブル)ほどではないが、その中間地点にある」と指摘しています。(2025/10/28:CNBC独占インタビュー)
彼は数百年にわたる債務サイクル(借金の循環)と帝国の盛衰をモデル化し、金融史における“繰り返されるパターン”を分析してきた人物です。
これは、歴史は「まったく同じこと」を繰り返すわけではないが、根本的な構造や人間の心理が似ているため、「よく似た展開」が再現される、という意味です。
ダリオ氏の分析によれば、バブルの発生には共通するメカニズムがあり、それは「① 技術革新」「② 信用拡大(借金)」「③ 金利政策(金融緩和)」という3つの要素が絡み合って形成されると考えられます。
さらに注目すべきは、ベストセラー作家アンドリュー・ロス・ソーキン氏の最新著『1929』です。彼は執筆を進めるうちに「調べれば調べるほど、1929年に起こったほぼすべてが現在とまったく同じであることがわかった」と語っています(Business Insider)。
1章の要点:歴史が韻を踏むのは、技術ではなく“人間の心理”が同じだから。
✅ 第2章:バブルを形成する3つの要素
1929年と現在に共通する、バブル形成の3つのドライバーを見ていきましょう。
【1929 vs 2025】バブルの構造比較
| 要素 | 1929年(狂騒の20年代) | 2025年(AIブーム) |
|---|---|---|
| 技術革新 | ラジオ、自動車、電化 | AI、半導体、データセンター |
| 信用拡大 | 証拠金取引(レバレッジ) | 手数料ゼロアプリ、個人VC投資 |
| 金利政策 | 低金利政策 | コロナ禍後の量的緩和(QE) |
1. 技術革新:期待が膨らむ「次の時代」
バブルには必ず、人々を熱狂させる「技術革新」が存在します。1920年代はラジオ、自動車、電化製品という「新時代のインフラ」が登場し、人々の生活を一変させました。
現在のAIブームも同様の構造です。生成AI、データセンター、半導体技術は確かに革新的です。しかし、その熱狂には懸念点もあります。
生成AIを支えるデータセンターは、過去10年分のサーバー台数をわずか数年で建設するペースで増えている。これは1920年代の“無限の需要”を信じて造られたラジオ工場と同じ構図かもしれない。
⚠️ 1920年代の教訓:RCAの暴落
当時、新技術の象徴だったラジオ・コーポレーション・オブ・アメリカ(RCA)の株価は530ドルまで急騰しましたが、大恐慌後にはわずか3ドルにまで暴落しました。技術の革新性と、その時点での株価の適正性は、分けて考える必要があります。
⚠️ 現在の懸念:循環的な資金構造
例えば、AI半導体の巨人エヌビディアが、自社の最重要顧客であるOpenAIに多額の投資を行うといった「循環的な資金構造」が見られます。ソーキン氏は「サプライヤーが顧客に資金を出して投資させている現状は、過剰な設備投資と言えないだろうか」と疑問を呈しています。
2. 信用拡大:「誰でも投資家」の時代
1920年代、GM(ゼネラル・モーターズ)が自動車ローンを導入し、銀行家が「株を買うための融資(証拠金取引)」を普及させました。わずかな自己資金(1ドル)で10ドルの株が買えるようになり、投資は「金融の民主化」として大衆の間に広がりました。
現在も状況は驚くほど似ています。Web3、暗号資産、ベンチャーキャピタルへの個人投資が急増し、誰もが高リスク資産に簡単にアクセスできるようになりました。これは投機と投資の境界線が曖昧になっている状態とも言えます。
【比較】投機へのアクセス
- 1929年:プラザホテルのバーで株が買えた(証拠金取引)
- 2025年:スマホで3秒でレバレッジETFが買える(手数料ゼロアプリ)
3. 金利政策:安すぎる資金コスト
バブル形成の最後の要素は、低金利による「安価で潤沢な資金(カネ余り)」です。1920年代のアメリカでは、低金利政策が株式市場への過剰な投資を後押しし、1924年から1929年のわずか5年間でダウ平均株価は5倍に高騰しました。
2020年代も同様に、コロナ禍後の大規模な低金利政策と量的緩和により、市場には膨大な資金が流入しました。その資金がAI関連株に集中した結果、エヌビディアの株価は驚異的なパフォーマンスを記録しています。しかし歴史が教えるのは、安価な資金が永遠に続くわけではないということです。
2章の要点:技術革新、借金(信用)、緩和マネー。バブルの材料は100年前も今も同じである。
✅ 第3章:1920年代「狂騒の20年代」の構図
1920年代のアメリカは「狂騒の20年代(Roaring Twenties)」と呼ばれ、空前の好景気に沸いていました。自動車、ラジオ、電化製品が生活を一変させ、それらの技術革新は確かに社会を変革する力を持っていました。
しかし、住宅と耐久消費財の需要(実体経済)は1927年にピークを迎えましたが、株価はその後も1929年まで上昇を続けました。実体経済と株価の「乖離(かいり)」が進んでいたのです。
⚠️ 90%の暴落という現実
ダウ平均株価は1929年9月3日に381.17ドルで最高値をつけた後、1932年7月には41.22ドルまで下落し、約90%の暴落を記録しました(日本銀行金融研究所)。
この時期の特徴は、技術への過度な期待と、価格を顧みない投機的な取引でした。まさにダリオ氏が指摘する「投資家が過去を外挿(がいそう:過去の傾向が未来も続くと考えること)し、価格に注意を払わなくなる」状態だったと言えます。
3章の要点:実体経済と株価が乖離し始めても、熱狂(投機)は止まらなかったのが1929年の教訓である。
✅ 第4章:現在のAI株高との恐るべき共通点
現在のAIブームと1920年代には、無視できない共通点が存在します。
【比較】歴史は韻を踏んでいる
- 1. エヌビディアとRCAの類似性
1920年代のRCA(ラジオ)は、現在のエヌビディア(AI半導体)と驚くほど似た立ち位置にあります。どちらも「時代を変える技術」の中核企業として、投資家の熱狂的な支持を集めました。エヌビディアの時価総額が5兆ドルを突破した今、この急上昇が持続可能か、冷静な目が必要です。 - 2. バリュエーション(株価評価)の歪み
現在のシラーPER(景気変動調整後の株価収益率)や、バフェット指数(GDPに対する株式時価総額の比率)は、過去最高水準に達しています。これは1929年や2000年のドットコムバブル期に匹敵する「割高」水準です。 - 3. 投機の大衆化
手数料無料の取引アプリの普及により、個人投資家がかつてないほど市場に参加しています。これは1920年代に「プラザホテルのバーで株が買えた」状況と本質的に同じ現象かもしれません。
4章の要点:エヌビディアとRCA、手数料ゼロアプリと証拠金取引。熱狂の主役と手段が変わっただけかもしれない。
✅ 第5章:冷静に見るべき警鐘と「1929年との違い」
では、歴史から学べることは何でしょうか。それは、技術革新そのものを否定するのではなく、その「評価(株価)」と「投資のタイミング」を冷静に見極めることだと考えられます。
作家のソーキン氏は「投機はイノベーションの『悪い双子』ではなく、結合した双子のようなものだ」と語っています。テスラもスペースXも、最初は“狂気の賭け”から始まりました。イノベーションには必ず投機が伴うのです。問題は「どこまでが健全な投機か」という境界線にあります。
現在の市場には、循環的な資金構造、実体経済を上回る株価上昇、規制緩和の動きなど、1920年代にも存在した危険なシグナルが見え隠れしています。
もちろん、当時と今では決定的に違う点もあります。現在は、証券取引委員会(SEC)が存在し、目論見書の作成が義務化され、より洗練された金融規制が導入されています。
私たちは過去の教訓から学び、制度を改善してきました。そのため、1929年と「まったく同じ」暴落が起こるとは限りません。
5章の要点:イノベーションと投機は表裏一体。問題は「価格」が「価値」からどれだけ離れているかである。
✅ 結び:冷静さと希望の狭間で
AIが私たちの世界を変革する技術であることは、もはや疑いようがありません。しかし、革新的な技術であることと、その技術を持つ企業の株価が「適正」であるかは、まったく別の問題です。
歴史が教えてくれるのは、熱狂はいつか必ず冷めるという事実だけです。
真の投資家は「買う理由」より、「逃げる条件」を先に決めるものです。
1929年も2008年も、危機の後には必ず新たなイノベーションが生まれました。ソーキン氏の言葉を借りれば、「私たちは痛みを通じてしか学べないが、学んだ後には必ず次の時代を創る力が生まれる」のです。
本記事のまとめ
- 歴史は韻を踏んでおり、現在のAIブームは1929年と共通する「3つの要素(技術・信用・金利)」を持つ。
- エヌビディアとRCA、投機の大衆化など、構造的な類似点が多く見られる。
- 一方で、規制の強化など、1929年とは異なる点も存在する。
- 投資家にとって最も重要なのは、熱狂に流されず、「価格(Price)」と「価値(Value)」の関係を常に問い続ける姿勢である。
要点
- Q. AIは本物か? → A. Yes
- Q. 今の株価は適正か? → A. 歴史的には割高
- Q. 歴史の教訓は? → A. 熱狂は必ず冷める
- → 熱狂の時代こそ、“買う理由”ではなく“逃げる条件”を決めておく
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