銀行の外側で積み上がる“静かな爆弾”
プライベートクレジットとは何か?|米国「影の信用市場」
近年、銀行融資の規制が強化される一方で、
企業の資金調達は「銀行の外側」へと急速に移動しています。
その中心にあるのが、いま世界で最も急拡大している信用市場の一つ、
プライベートクレジット(非公開の民間融資)です。
2025年時点で市場規模は約2.1兆ドル(約320兆円)。
その約75%が米国に集中し、10年前と比べて数倍に膨張しました。
この市場は本当に「高利回りで安定した新しい投資先」なのでしょうか。
それとも、まだ表に出ていないリスクを内包した構造なのでしょうか。
なぜ今、プライベートクレジットが拡大しているのか
拡大の背景はシンプルです。
金融危機後の規制強化により、銀行はリスクの高い融資を出しにくくなりました。
その結果生まれた「融資の空白」を、
運用会社主導のプライベートクレジットが埋めてきたのです。
- ✔ 銀行より迅速・柔軟な条件で資金供給が可能
- ✔ 投資家には高い利回り(プレミアム)を提示
- ✔ Blackstone / Ares / KKR / Apollo などが主導
一見すると、「規制の歪みを補完する合理的な市場」に見えます。
しかし問題は、その中身がどこまで可視化されているかです。
① 低デフォルト率は「安心材料」なのか
表面上、プライベートクレジットのデフォルト率は低く見えます。
| データ提供者 | デフォルト率 | 備考 |
|---|---|---|
| Proskauer | 1.76% | 2025 Q2 |
| Bloomberg | 5.4% | 停止ローン含む |
| Fitch | 4.6% | 2025年 |
数字が大きく異なる理由は、
「何をデフォルトと定義するか」が統一されていないからです。
- 利息を新たな借入で支払う(PIK)延命措置
- 支払不能でも「公式デフォルト」と扱われないケース
- 営業利益を上回る利払いを続ける借り手の増加
つまり、問題は「起きていない」のではなく
「まだ表面化していない」可能性があります。
② 最大の構造リスク:評価の不透明性
プライベートクレジット最大の問題は、
市場価格(時価)が存在しないことです。
株式や公募債券と異なり、
価格はファンドの内部モデルで四半期ごとに算出されます。
「安定している」のではなく
変動が反映されていないだけかもしれません。
③ 実際に起き始めた破綻と不正
2025年には、この構造的弱点を象徴する事例が顕在化しました。
First Brands 破綻(負債100億ドル超)
- 破綻直前までローン評価は額面近辺
- 複数金融機関が巨額損失を計上
- 「評価は正しかったのか?」という根本的疑問
架空売掛金を使った大規模詐欺
見えない担保・未検証資産・モデル評価。
市場の弱点を突いた事件でした。
④ 銀行と切り離されていない現実
IMFが最も懸念しているのは、
プライベートクレジットが銀行と深く結びついている点です。
ノンバンクへの銀行エクスポージャーは約4.5兆ドル。
危機は一方向ではなく、双方向に連鎖します。
⑤ サブプライム再来なのか?
現時点で、2008年のような即時崩壊が起きる可能性は高くありません。
しかし、
「見えない損失」
「全体像を誰も把握できない」
という構造は、驚くほど似ています。
結論:爆発していないだけで、爆薬は積まれている
プライベートクレジットは、今すぐ危機ではありません。
しかし、
なぜ崩れていないのかを合理的に説明できない
という点こそが、最大のリスクです。
高い利回りの裏にあるのは、
「見えているリスク」ではなく
「まだ見えていないリスク」かもしれない。
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このコラムは 経済コラム|信用と金融構造 の一部です。
