ディスコ(6146):「切る・削る・磨く」で半導体後工程を支配するニッチトップ

【企業図鑑】DISCO CORPORATION
「切る・削る・磨く」で世界を支える。
半導体製造の裏側で安定した収益を積み上げる、ニッチ領域の構造分析

この企業に注目する理由

── 高い収益性を支える「カミソリと替え刃」モデルの成熟形

半導体業界は「シリコンサイクル」と呼ばれる好不況の波にさらされやすい産業です。その中で、比較的高い収益性を維持してきた日本企業の一つが株式会社ディスコです。

同社は、シリコンウェーハを切り出し、薄く削り、磨き上げるための装置とツールで世界的なシェアを持っています。製造業でありながら売上総利益率(粗利率)が約70%に達するなど、特徴的な収益構造を有しています。なぜ代替されにくいポジションを築いているのか。生成AIの拡大で重要性が増す「後工程」における、同社の構造的な優位性を整理します。

💎 第1章:どんな企業なのか(事業構造と稼ぐ力)

── 「Kiru・Kezuru・Migaku」に特化した技術集団

ディスコの事業はシンプルでありながら、非常に専門性の高い領域に特化しています。半導体製造プロセスの「後工程」において、ウェーハをチップに切り分ける「ダイシングソー(切断装置)」、ウェーハを極薄に削る「グラインダ(研削装置)」、そして磨く「ポリッシャ(研磨装置)」を開発・製造・販売しています。

同社の特徴は「装置販売にとどまらない」点にあります。装置に取り付けて実際に素材を加工する「砥石(ブレード・ホイール)」などの消耗品(精密加工ツール)を自社で開発・供給し、これが継続的な収益源となっています。「装置(カミソリ本体)」と「ツール(替え刃)」の組み合わせが、収益性を支える重要な基盤です。

🏰 第2章:なぜ特別なのか(他社が真似できない理由)

── 「失敗が許されない」工程を担うことで生まれる信頼と切替コスト

1. 高いスイッチングコストと参入障壁

半導体製造の最終段階(後工程)では、ウェーハには既に高額な回路が形成されています。ここで切断に失敗すれば、それまでの工程が無駄になるため、顧客は価格よりも「加工品質の安定性」を重視します。一度採用された装置や消耗品を他社製に切り替えることは、顧客にとって一定のリスクが伴い、結果として高いスイッチングコストが生じます。

2. 消耗品によるリカーリングモデル

ディスコのビジネスモデルの要は、装置販売後の「精密加工ツール(消耗品)」の継続販売にあります。顧客の工場稼働率が上がるほど、消耗品の需要も増加します。2025年度上期においても消耗品売上は過去最高を更新しており、市況の影響を受けやすい装置販売を、安定的な消耗品収益が補完する構造になっています。

3. アプリケーション(加工条件)の提供能力

単に「切断装置」を販売するのではなく、「新素材をどの条件で加工すべきか」というノウハウ(アプリケーション)を含めて提供できる点も特徴です。顧客の先端開発段階から関与し、加工実験を重ねることで、次世代半導体の製造プロセスに同社の技術が組み込まれていきます。

⚠️ 第3章:課題と向き合い方(外部環境への対応)

堅調に見えるディスコですが、外部環境の影響を受ける可能性はゼロではありません。

  • 需要変動:半導体業界は投資意欲の変動が大きく、2025年度上期においても、生成AI向けは好調な一方、EV向けパワー半導体や民生機器向けは調整局面にあるなど、用途による差が見られます。
  • 地政学リスク:売上の多くが海外であり、輸出規制やサプライチェーンの変化は一定のリスクとなり得ます。

🛡️ リスクへの対応策:柔軟性を重視した経営体制

ディスコは「需要予測の不確実性」を前提に、環境変化に対応しやすい体制づくりを進めています。「Will会計」と呼ばれる独自の管理会計により、部門ごとの採算意識を高め、意思決定のスピード向上に取り組んでいます。

🚀 第4章:未来へのビジョン(成長のドライバー)

1. 生成AIと先端パッケージング技術

AI半導体(GPU等)の高度化に伴い、HBM(広帯域メモリ)など、チップを積層する「先端パッケージ技術」の重要性が高まっています。チップを薄く削り、高精度で切断する工程の難易度は上昇しており、同社技術への依存度は引き続き高い状態が続くと考えられます。

2. 「Fab Important」戦略による開発・製造の一体化

ディスコは「創る力(開発)」と「造る力(製造)」の両立を競争力の源泉と位置づけています。羽田R&Dセンターの新棟建設や、広島事業所の新工場建設など、年間300億円規模の設備投資を継続予定です。将来の需要・技術難易度の上昇を見据え、開発から製造まで一体で対応できる体制を整備しています。

まとめ:この企業を一言で言うなら

「表舞台には立たずとも、デジタル社会を下支えする黒子的存在」

AIもEVも、その裏側には「切る・削る・磨く」という地道な工程があります。
高い技術的ハードルと消耗品ビジネスという組み合わせにより、景気変動の中でも比較的安定した収益構造を築いてきた企業と言えるでしょう。

企業価値を「構造」から考える

企業の強さは、売上や成長率だけで決まるものではありません。
どこに組み込まれ、何によって支えられているか という構造が、 長期的な価値を左右します。
▶ 日本株 企業構造図鑑
ビジネスモデル・制度・ノウハウなど、 企業の土台となる構造から読み解く企業分析をまとめています。