ステーブルコインの金融インフラ化

民間通貨から「制度内デジタルマネー」へ
──規制組み込みが進む移行期を読む

国境を越えた送金を、数秒・低コストで行う──。 こうした構想は長らく理想論とされてきましたが、 ステーブルコインを軸とした決済・送金の再設計により、制度整備が完了し実用段階に入りつつあります。

重要なのは、ステーブルコインが 「自由な暗号資産」として拡大しているのではなく、 各国の金融当局によって制度の内側へ組み込まれ始めている点です。

本記事では、米国・EU・日本の制度設計を整理しながら、 ステーブルコインが今どの段階にあり、 投資家はどこまでを「期待」とし、 どこからを「未確定リスク」と捉えるべきかを整理します。

【はじめに】「通貨実験」から制度管理へ

銀行・金融規制の枠内で扱われ始めたステーブルコイン

ステーブルコインは、もはや完全な無規制領域ではありません。 米国・EU・日本では、 銀行監督・資金決済法・電子マネー規制といった 既存の金融制度の枠内で管理する方向へ明確に舵が切られています。

ただしこれは 「金融インフラとして完成・定着した」ことを意味しません。 正確には、 金融インフラへの組み込みが制度的に試行されている移行期 と位置付けるのが妥当でしょう。

主要ステーブルコインの扱いの違い

  • USDT(Tether):流動性は最大だが、規制対応の不透明さからEUでは制限
  • USDC:規制遵守を優先し、EU MiCA下で認可を取得
  • PYUSD:PayPalがNY州金融当局の監督下で発行、既存決済網との接続を重視

今後は「技術的に優れているか」よりも、 「どの制度圏に正式に組み込まれているか」が 利用範囲と成長余地を左右する局面に入っています。

【各国の制度設計】三者三様の戦略

米国:民間主導でドル圏を拡張

米国では、2025年7月18日に GENIUS Act(ステーブルコイン包括規制法)が成立しました。 本法により、ステーブルコインは 連邦レベルでの規制枠組みが初めて明確化され、 施行は2027年1月が予定されています。

米国の特徴は、 CBDC(中央銀行デジタル通貨)を採用せず、 民間ステーブルコインを通じてドル経済圏を拡張する という明確な戦略にあります。

EU:金融安定を最優先

EUのMiCA規制は、 イノベーションよりも 利用者保護と金融システムの安定を重視しています。

結果として参入障壁は高く、 制度に適合できない事業者は市場から排除されますが、 その分「制度内で使える暗号資産」という位置付けは明確です。

日本:制度先行から実用段階へ

日本は世界に先駆けて法整備を完了した国の一つです。 そして2025年には、 制度先行から実用フェーズへ明確に移行し始めました。

2025年10月には、 日本初の法認可ステーブルコインである JPYCが正式発行され、 さらに3メガバンクによる企業向け円建てステーブルコインの共同発行計画も発表されています。

Progmat Coinを中心とした取り組みは、 もはや単なる検証段階ではなく、 企業間決済・金融実務への実装を前提とした段階に入ったと評価できます。

【今後の整理】3つの現実的シナリオ

① CBDCとステーブルコインの役割分担

各国の方針は一様ではありません。 米国はCBDCを採用せず、 EU・日本はCBDCと民間ステーブルコインの併存を模索しています。 結果として、 CBDC=国内決済・公共領域 ステーブルコイン=民間・国際用途 という分担が進む可能性があります。

② 国際送金の補完インフラ

ステーブルコインは、 SWIFTを即座に代替する存在ではありません。 むしろ、 既存の国際送金網を補完・効率化する手段として 段階的に組み込まれていく可能性が高いと考えられます。

③ 銀行・決済網との接続実験

ZelleやVisaなどの動きは、 暗号資産を「意識させない形で使わせる」ことを目的とした 接続実験の段階にあります。

【まとめ】投資家が押さえるべき視点

  • ステーブルコインは「完成された金融インフラ」ではない
  • 制度圏への組み込みが進む移行期にある
  • 勝者を分けるのは技術力より規制適合力と既存ネットワーク

投資とは、 「何が流行るか」を当てる行為ではありません。

どの制度が、 どの信用を守り、 どこへ資金の流れを誘導しようとしているのか。

ステーブルコインは、 その構造を読み解くための 非常に分かりやすい教材になりつつあります。

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