スタグフレーションという「経済の矛盾」
── 成長が止まり、物価だけが上がる世界で資産をどう守るか
景気は伸びない。
しかし物価だけは上がり続ける──。
スタグフレーションとは、経済理論が前提としてきた「不況=物価安定」という関係が崩れる、最も厄介な経済状態です。
収入が増えない一方で、生活コストだけが確実に上昇する。
これは単なる景気循環の問題ではなく、経済構造そのものに歪みが生じているサインでもあります。
本稿では、スタグフレーションを「インフレの一形態」としてではなく、
供給制約・信用・政策制約が同時に絡み合う“構造問題”として整理し、
個人投資家が取るべき現実的な備えを考えます。
Ⅰ.スタグフレーションとは何か|なぜ「矛盾」なのか
通常、景気後退が起これば需要は冷え込み、物価は安定または下落します。
しかしスタグフレーションでは、
- 経済成長の鈍化(あるいは停滞)
- 高止まりするインフレ
- 雇用環境の悪化
が同時に進行します。
これは、従来のフィリップス曲線(インフレと失業率は逆相関する)が機能しない状態です。
供給ショックという根本原因
スタグフレーションの本質は、需要ではなく供給側に問題が起きることにあります。
エネルギー価格の急騰、戦争、地政学リスク、パンデミックなどにより、
- ✔ モノは足りない
- ✔ コストは上がる
- ✔ 企業は価格転嫁せざるを得ない
結果として、経済活動は鈍るのに、物価だけが上昇するという矛盾が生じます。
Ⅱ.1970年代スタグフレーションが残した教訓
1970年代のオイルショックは、典型的なスタグフレーションの実例です。
高インフレと株式市場の長期停滞
通貨不安と市場機能の低下
急激なインフレと株価調整
各国が直面した最大の問題は、「インフレを抑えると景気が壊れる」「景気を守るとインフレが止まらない」という政策のジレンマでした。
最終的にインフレを抑え込んだのは、アメリカのボルカーFRB議長による極めて強硬な金融引き締めです。
これは「短期的な痛みを受け入れなければ、長期的な信用は守れない」という教訓を残しました。
Ⅲ.現代は「70年代型」と同じなのか?
現在の世界経済は、当時と全く同じ状況ではありません。
- 金融政策の透明性は高い
- インフレ期待のコントロール手法も進化した
一方で、
- ✔ 長年の金融緩和による信用拡張
- ✔ 地政学リスクの常態化
- ✔ 供給網の分断
といった新しい制約も抱えています。
その結果、「深刻なスタグフレーション」ではなく、
低成長+インフレが長期化する“軽度型スタグフレーション”が最も現実的なシナリオとして意識されています。
Ⅳ.スタグフレーション下で資産はどう振る舞うか
この環境では、伝統的な資産クラスが同時に苦しむ局面が生じます。
重要なのは、「どれが最強か」ではなく、
どれも万能ではない前提で組み合わせることです。
現実的な防衛軸
- インフレ耐性のある実物資産(コモディティ・金)
- 価格転嫁力を持つ企業(生活必需・インフラ)
- 短期・流動性資産による柔軟性確保
これはリターン最大化の戦略ではなく、
生存性を高めるためのポートフォリオ設計です。
まとめ|スタグフレーションは「想定外」を排除する思考訓練
スタグフレーションとは、
「経済は成長する」「インフレは一時的」という前提が崩れた世界です。
だからこそ重要なのは、予測ではなく構造理解と分散です。
最悪の事態を断定する必要はありません。
しかし、最悪が起きても致命傷を負わない設計は、今からでも可能です。
経済の矛盾を理解することは、
不安を煽るためではなく、冷静に備えるための知識なのです。
このテーマを、構造の視点からさらに深掘りする:
-
信用はどこまで拡張できるのか?|金融システムの限界とバブルの正体
スタグフレーションの背景にある「信用拡張」と、その破綻条件を整理する
本記事は 経済コラム|信用・インフレ・金融構造 シリーズの一部です。
