Novartis AG(NVS):モダリティの多様性で生存確率を高める医薬品アーキテクト

【企業図鑑】Novartis AG (NVS)
「コングロマリット・ディスカウント」からの脱却
物流そのものを武器にする、次世代モダリティの建築家

この企業に注目する理由

── 「薬を作る技術(モダリティ)」の多様性が、生存確率を高めている

多くの製薬企業が特定の疾患領域に依存する中、ノバルティスは「低分子」「バイオ」といった従来技術に加え、「放射性リガンド療法(RLT)」「xRNA」「遺伝子・細胞治療」という3つの先端プラットフォームを実用化レベルで保有しています。

特に、放射性物質を扱うRLTにおいては、製造から患者への投与まで数日しか許されない「時間との戦い」を制するサプライチェーンを構築しており、これが他社の参入を阻む強力な物理的障壁となっています。

🔬 第1章:どんな企業なのか(輪郭と事業構造)

── 余計なものを削ぎ落とし、4つの領域に資源を集中

かつてのノバルティスは、ジェネリック医薬品(Sandoz)やアイケア(Alcon)も抱える巨大コングロマリットでしたが、現在はそれらを分離し、「革新的医薬品(Innovative Medicines)」のみに特化したピュアプレイ企業へと変貌を遂げました。

  • 循環器・腎・代謝(CRM):心不全薬Entrestoや、コレステロール低下薬Leqvioなどが牽引。
  • 免疫学:乾癬治療薬Cosentyxなど。
  • 神経科学:多発性硬化症薬Kesimptaなど。
  • オンコロジー(がん):乳がん薬Kisunla、放射性リガンド療法Pluvictoなど。
直近の事業状況(2025年Q3時点):
売上高は前年同期比19%増(恒常為替レート)と極めて高い成長率を記録しています。特筆すべきは、この成長が値上げではなく「数量(Volume)」の増加(+22ポイント寄与)によって牽引されている点です。これは、同社の製品が医療現場で構造的に必要とされ、浸透していることを示唆しています。

💡 第2章:なぜ特別なのか(競争優位の源泉)

ノバルティスの強みは、単一のブロックバスターに依存せず、複数の技術プラットフォームを「使い分ける」能力にあります。

🔍 深掘り:放射性リガンド療法(RLT)の「兵站戦」

前立腺がん治療薬Pluvictoに代表されるRLTは、放射性同位元素をがん細胞に直接届ける技術です。しかし、放射性物質は半減期が短く、在庫がききません。

  • 製造と物流の参入障壁:インディアナポリス(米国)、イヴレーア(イタリア)、サラゴサ(スペイン)などに専用の製造拠点を持ち、製造から数日以内に患者へ届ける「ジャスト・イン・タイム」の供給網を構築しています。
  • 先行者利益:この複雑なサプライチェーンをゼロから構築するには数年単位の時間と規制当局の認可が必要であり、他社が容易に追随できない「物理的な堀」となっています。
構造的な強み(要約)
  • xRNAプラットフォーム(Leqvio):「半年に1回の注射」で済むコレステロール治療薬は、服薬コンプライアンス(飲み忘れ防止)という社会課題を技術で解決し、長期的な継続利用を促す構造を持っています。
  • グローバル展開力:米国市場だけでなく、欧州、中国、日本といった主要市場でバランスよく成長しており、特定の医療制度変更リスクに対する耐性が高いポートフォリオを組んでいます。

⚙️ 第3章:課題と向き合い方(特許の崖と置換戦略)

最大の課題は、現在の主力製品である心不全薬Entrestoの特許切れ(LOE: Loss of Exclusivity)が2025年〜2026年に迫っていることです。

🤔 「エントレストの崖」をどう越えるか

Entrestoは年間売上60億ドル超を稼ぐ大黒柱ですが、この売上がジェネリック医薬品によって浸食されるリスクがあります。

  • 新製品へのスイッチ:乳がん薬Kisunla、多発性硬化症薬Kesimpta、RLTのPluvictoといった「成長ドライバー」製品群が、既にEntrestoの減少分を補って余りある成長(Q3時点で前年比+40〜50%超)を見せています。
  • 適応拡大:Kisunlaは早期乳がん(eBC)への適応拡大により、対象患者数が数倍に広がる可能性があります。これにより、特許切れの影響を吸収し、さらなる成長を目指す構造になっています。

🌿 第4章:未来像(中期経営計画とパイプライン)

2028年まで年平均5%以上の売上成長、および40%以上のコア営業利益率を目指すという堅実かつ野心的な目標を掲げています。

腎臓領域への進出:
AtrasentanやZigakibartといった後期開発品により、これまで治療選択肢が限られていたIgA腎症などの腎臓疾患領域を開拓しようとしています。これは新たな収益の柱となる可能性があります。

RLTの次世代化:
前立腺がんだけでなく、乳がんや肺がんなど他のがん種へRLTの適応を広げる研究が進んでいます。また、アクチニウムなど新しい放射性核種を用いた治療法の開発により、このプラットフォームの価値をさらに高めようとしています。

まとめ:この企業を一言で言うなら

ノバルティスは、薬を「化学」から「物流」へ昇華させ、
5つの技術基盤を武器に疾患を包囲する、医療の総合建築家。

「特許の崖」を技術の多様性と供給網の強さで乗り越える構造は、
長期的なポートフォリオの安定性をもたらします。

企業価値を「構造」から考える

グローバル企業の競争力は、成長率や市場規模だけでは測れません。
どの市場に組み込まれ、どの制度・ネットワークに支えられているか という構造が、 長期的な価値を左右します。
▶ 世界株 企業構造図鑑
制度・技術・ネットワーク・ノウハウといった観点から、 世界市場で成立している企業構造を整理しています。