米国主力銀行CEOが警鐘を鳴らす「隠れたリスク」

2025年Q3決算が示す今後のシナリオ

はじめに:好決算の裏に潜む警戒感 ⚠️

2025年10月、JPモルガン、バンク・オブ・アメリカ、シティグループ、ウェルズ・ファーゴの4大銀行が相次いで第3四半期決算を発表しました。表面的な数字は軒並み好調—増収増益、高水準の株主還元、堅固な資本基盤。しかし、各CEOの発言からは、まったく異なるトーンが聞こえてきます。

「ゴキブリが1匹いれば、おそらく他にもいるものだ」

― JPモルガンのジェイミー・ダイモンCEO

JPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOのこの印象的な言葉は、決算発表の場で投資家に強烈なインパクトを与えました。好業績を発表しながらも、なぜトップバンカーたちは警戒を緩めないのか?今回は、4大銀行の最新決算とCEO発言から、今後数年間に顕在化しうるリスクシナリオを読み解きます。


1. 数字は語る:一見盤石の業績

JPモルガン・チェース:史上最高の四半期

  • 売上高: 約464~471億ドル(前年比+9%)
  • 純利益: 143~144億ドル(+12%)
  • 有形自己資本利益率(ROTCE): 20%
  • マーケッツ収益: 89億ドル(+25%、史上最高)

投資銀行部門が牽引し、全セグメントでバランスの取れた成長を実現。資産・ウェルスマネジメント部門の運用資産は4.6兆ドルに到達しました。

バンク・オブ・アメリカ:投資銀行業務が復活

  • 売上高: 266~280億ドル(+4~11%)
  • 純利益: 80~85億ドル(+23~26%)
  • 投資銀行業務手数料: 43%増(20.5億ドル)、M&A助言手数料: 51%の大幅増

純金利収入の着実な伸びと、投資銀行部門の回復が際立つ決算となりました。

シティグループ:変革の成果が数字に

  • 売上高: 221億ドル(+9%)、純利益: 38億ドル(+16%)
  • 5大事業部門すべてでポジティブな営業レバレッジを実現
  • 株主還元: 四半期60億ドル、年初来120億ドル

長年の事業再編・簡素化戦略がようやく財務数値に反映され始めています。

ウェルズ・ファーゴ:規制解除後の飛躍

  • 売上高: 214億ドル(+5%)、純利益: 53~56億ドル(+9~10%)
  • ROTCE目標: 15%から17-18%へ引き上げ、自社株買い:61億ドル

資産上限規制の解除を追い風に、新たな成長サイクルに入った印象です。


2. CEOたちが見ている「見えないリスク」 🕵️

ダイモンCEOの警告:プライベート市場の闇

好決算を発表したJPモルガンですが、ダイモンCEOの発言は極めて慎重でした。「クレジット面で今年は『過剰の初期兆候』が現れている」

彼が特に警戒しているのは:

  • サブプライム自動車ローン市場: トライカラー・ホールディングスの破綻で1.7億ドルの損失。「氷山の一角」との認識
  • プライベートクレジット市場: BDC(事業開発会社)の評価基準が不透明。「ブラックボックス」化したリスク評価
  • 景気後退シナリオ: 「他の人々が考えるより少し悪い結果になるだろう」「特定の分野で通常より大きな信用損失が発生する」

シャーフCEO(ウェルズ・ファーゴ):商業不動産の長期ストレス

ウェルズ・ファーゴは、商業不動産リスクについて最も率直な開示を行っています。「オフィスローンのポートフォリオで将来20~30億ドル規模の損失引当が予想される」

  • リスクは今後3~4年かけて顕在化し、すでに損失引当金を計上済み。
  • 「オフィス需要は以前ほどではない」

この透明性の高い開示は、投資家の信認向上にもつながっています。

フレイザーCEO(シティグループ):バリュエーションの過熱

シティグループのジェーン・フレイザーCEOは、変革の成果を強調しつつも:「市場の一部ではバリュエーションに過熱感がある」

  • 企業向け貸出で投資適格債の比率が82%→77%に低下。非投資適格債が18%→23%へ増加
  • 「顧客たちが経済的逆風に備えている」として信用の質的変化を注視。

モイニハンCEO(BofA):慎重な楽観論

バンク・オブ・アメリカのブライアン・モイニハンCEOは、4人の中では最も楽観的ですが:「米経済のノーランディング(景気後退なしの成長持続)を想定するが、利下げは慎重に」

  • クレジットカード延滞率の上昇、商業不動産オフィスの評価損動向を継続監視。
  • 「サブプライム層では延滞率がやや高まっている」と、楽観論の中にもリスク管理の姿勢が明確。

3. 浮かび上がる3つのリスクシナリオ 🚨

シナリオ1:プライベート市場の信用危機 時間軸: 2026年~2027年 / 発生確率: 中程度

【メカニズム】

  • 低金利時代に積み上がったプライベートクレジットが金利上昇で返済負担が増大。
  • BDCやプライベートファンドの評価損が顕在化し、「隠れた不良債権」が表面化。

ダイモンCEOの指摘: 「景気下降が起きれば、特定の分野で通常より大きな信用損失が発生する。BDCやプライベートクレジットファンドの評価基準がブラックボックスである点に危機感を持っている」

【影響範囲】

  • 大手銀行は限定的(十分な引当金)だが、地域銀行や専門金融機関により大きな影響。市場全体の信用収縮リスク。

シナリオ2:商業不動産の長期調整 時間軸: 2025年~2028年(すでに進行中) / 発生確率: 高い

【数字で見る深刻度】

  • ウェルズ・ファーゴ:20~30億ドルの損失見込み
  • 全米のオフィス空室率:歴史的高水準。リモートワークの定着で需要構造が変化。

【システミックリスクにはならない理由】

  • 大手銀行は十分な資本バッファー。CREエクスポージャーは分散され、問題の中心は「オフィス」セクターに限定。
  • ただし、地域銀行にとっては深刻な可能性があります。

シナリオ3:消費者信用の緩やかな劣化 時間軸: 進行中~2026年 / 発生確率: 中〜高

【注目指標】

  • クレジットカード延滞率の上昇: 特にサブプライム層で顕著。パンデミック給付金の効果剥落。
  • 自動車ローンのストレス: サブプライム自動車ローン会社の破綻増加。JPモルガンは1.7億ドルの損失を計上。
  • 消費者信頼感の低下: ダイモンCEO「経済は減速の兆候。消費者信頼感は低下」

【銀行の対応】

  • 全行とも「消費者全体は健全」との見方だが、信用スコアの低い層へのエクスポージャーを慎重に管理。AIを活用した早期警戒システムを導入し、引当金を積み増し。

4. なぜCEOたちは「好決算」でも警戒するのか

歴史の教訓:2008年金融危機

  • リーマンショック前も、多くの銀行が好決算を発表していたが、サブプライムローンの問題を過小評価し、複雑な金融商品でリスクが見えにくくなっていた。「今回は違う」という楽観論が支配的だった。

今回の違い:透明性とリスク管理

  • 早期警告の発信: ダイモンCEOの「ゴキブリ」発言のように、リスクを過小評価せず、率直に語る。
  • 十分な資本バッファー: CET1比率は全行とも規制水準を大きく上回り、ストレステストをクリア。
  • シナリオ分析の徹底: 景気後退、金利急変動など複数シナリオを想定し、「最善を期待し、最悪に備える」。

プライベート市場の不透明性

  • 公開市場と違い、日々の価格形成がない、評価モデルが不明確。ストレス時に流動性が枯渇するリスクを孕んでおり、これは2008年当時の「証券化商品」と似た構造的問題を孕んでいる。

5. 投資家が注目すべきポイント

短期(2025年Q4~2026年前半)

【監視指標】

  • 純金利収入(NII)の推移: 金利低下局面でのマージン動向。BofAは「2025年通年で6~7%増」をガイド。
  • 信用コストの変化: 貸倒引当金の積み増しペース。特にカードローン・自動車ローンのNCO(純貸倒損失)。
  • 投資銀行手数料(M&A市場の回復継続性)

【注目イベント】

  • FRBの利下げペースと経済指標、商業不動産市場の動向(特にオフィス)、地域銀行の決算(ストレスの早期指標)。

中期(2026~2027年)

【構造変化】

  • AI・デジタル投資の成果(効率性比率の改善、新規ビジネスモデルの収益化)。
  • 規制環境の変化(バーゼル規制の最終化、資本要件の緩和可能性)。

【リスクの顕在化タイミング】

  • プライベートクレジット市場のストレス、景気後退が発生した場合の連鎖的影響。
  • 商業不動産の調整完了(ウェルズ・ファーゴの損失計上の進捗、市場の底打ち時期)。

6. 各銀行の戦略的ポジショニング

JPモルガン:警戒の中の攻めの多角化

強み: 圧倒的な資本力(CET1比率14.8%)、全セグメントでのバランス、最高水準のリスク管理能力。

戦略: 「最善を期待し、最悪に備える」。投資銀行・ウェルスマネジメントの拡大、テクノロジー・AI投資の加速。株主還元: 1株1.50ドルの配当(20%増配)。

バンク・オブ・アメリカ:堅実経営とデジタル革新

強み: バランスの良い収益構成、AIプラットフォームによる顧客分析力、安定した預金基盤。

戦略: 「持続的成長」重視。デジタル・AI活用の先行投資、コスト管理と還元の両立。特徴: 最もバランス型。急成長より持続性を重視。

シティグループ:変革の途上

強み: グローバルなクロスボーダー決済、事業再編による効率化の進展、AI・デジタル投資の先進性。

課題: ROTCE(10-11%目標)はまだ低水準、信用リスクプロファイルの変化、市場での評価回復途上。

戦略: 「簡素化と集中」で収益性を段階的に改善。

ウェルズ・ファーゴ:規制解除後の第二章

強み: 米国市場への集中、規制解除による成長余地、高い透明性(CRE開示)。

戦略: ROTCE目標を17-18%へ引き上げ、コスト削減の徹底、株主還元の強化。注目点: 規制からの解放でどこまで伸びるか。


7. 結論:「好調な今こそ」の警戒が意味するもの

CEOたちが伝えたいメッセージ:「好決算だからこそ警戒を緩めない」という姿勢

これは単なる謙遜ではありません:

  • リスクは見えにくい時に蓄積する: 市場が楽観的な時こそ危険。特にプライベート市場の不透明性。
  • 過去の教訓を活かす: 2008年の反省を活かした早期警告の重要性。
  • ステークホルダーへの責任: 投資家、規制当局、顧客への透明性、長期的信頼の構築。

今後数年のシナリオ分析

✅ ベースケース(確率50%)

  • 経済状況: 緩やかな景気減速に留まる。
  • 主要リスク: 商業不動産の局所的調整、消費者信用の質的変化は限定的。
  • 銀行の業績: 大手銀行は高収益を維持する。

⚠️ ダウンサイドケース(確率30%)

  • 経済状況: 軽度の景気後退に陥る。
  • 主要リスク: プライベート市場でストレス顕在化、商業不動産損失がやや拡大。
  • 影響: 地域銀行に波及するが、大手行は十分な資本で乗り切る。

🚨 厳しいシナリオ(確率20%)

  • 経済状況: 深刻な景気後退に突入。
  • 主要リスク: 信用市場の広範な収縮、商業不動産の連鎖的問題、システミックリスクの芽
  • 影響: 大手行も一時的に減益となる。

投資家へのアドバイス

  • 短期的には楽観、中期的には慎重: 現時点の業績は堅調だが2026~2027年の不確実性は高い。
  • 信用指標の継続監視: 四半期ごとの延滞率、NCO、引当金の積み増しペース。
  • 分散投資の重要性: 銀行セクター内でも特性が異なる(JPモルガンの防御力 vs ウェルズ・ファーゴの成長性)。
  • CEOの言葉を軽視しない: 「数字」だけでなく「トーン」を読む。ダイモンCEOの警告は歴史的に的中率が高い。

おわりに:「見えないリスク」を可視化する

2025年Q3の米国銀行決算は、表面的には申し分ない内容でした。しかし、経験豊富なCEOたちは、数字の向こう側にある「見えないリスク」を見据えています。「ゴキブリが1匹いれば、他にもいる」この言葉が示すのは、単なる悲観論ではありません。むしろ、健全な警戒心と準備の重要性です。

2008年の教訓は、「問題が明らかになった時にはすでに遅い」ということでした。今回、銀行CEOたちは早い段階からリスクを語り、準備を進めています。好調な決算の裏にある警戒感—それは、次の危機を未然に防ぐための、金融業界の成熟した姿勢なのかもしれません。

【次回決算で注目すべきポイント】

  • プライベートクレジット関連の損失計上
  • 商業不動産引当金の推移
  • 消費者ローン延滞率の変化
  • AI投資の収益化進捗
  • FRBの政策対応と銀行の金利感応度

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著者情報

投資歴25年の個人投資家Sakumiが執筆。初心者向けに実体験に基づいた投資ノウハウや口座選びのポイントを発信中。

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