Novo Nordisk(NVO):代謝疾患治療を「社会インフラ」へと拡張する企業

【企業図鑑】Novo Nordisk A/S
代謝疾患治療の「インフラ化」
注射から経口へ、治療から予防へ。慢性疾患管理のOSを握る巨人

この企業に注目する理由

── 「注射針」という物理的ボトルネックを解消し、市場の天井を取り払った

ノボ・ノルディスクの最大の強みは、GLP-1受容体作動薬(セマグルチド)を、注射だけでなく「経口薬(飲み薬)」として実用化・普及させる技術力にあります。2026年初頭の「経口Wegovy」の米国発売は、医療機器(ペン型注入器)の製造能力という物理的制約から同社を解放し、患者の心理的ハードルを劇的に下げました。

糖尿病と肥満という、現代社会最大級の慢性疾患に対し、もはや「薬」ではなく「生活インフラ」として深く根を下ろす構造を完成させつつあります。

🔬 第1章:どんな企業なのか(輪郭と事業構造)

── 100年のインスリン知見を「代謝全般」へ応用する専門特化企業

デンマークに拠点を置くノボ・ノルディスクは、売上の大部分を「糖尿病ケア」と「肥満症ケア」で稼ぎ出す、極めてフォーカスされた事業構造を持っています。

最新の動向(2025年〜2026年初頭):
2026年1月、米国にて「経口Wegovy(セマグルチド錠)」の提供を開始し、肥満症治療におけるゲームチェンジャーとなりました。また、2025年末には次世代薬「CagriSema」のFDA申請や、肝疾患治療薬を持つAkero Therapeuticsの買収完了など、ポートフォリオの「深掘り」と「横展開」を同時に進めています。

💡 第2章:なぜ特別なのか(競争優位の源泉)

競合他社も優れた薬を持っていますが、ノボ・ノルディスクの特異性は、一つの有効成分(セマグルチド)を極限まで使い倒す「プラットフォーム戦略」にあります。

🔍 深掘り:「SNAC技術」による経口化の独占

通常、胃で分解されてしまうペプチド医薬品を、飲み薬として吸収させる技術(SNAC技術)を保有しています。

  • 代替不可能性:多くの競合が依然として注射剤に依存する中、高用量の経口GLP-1製剤を市場投入できている点は、注射を嫌う層(潜在的な最大市場)への独占的なアクセス権を意味します。
  • スケーラビリティ:複雑なデバイス(注入器)が不要なため、製造ボトルネックが解消されやすく、パンデミック級の需要増加にも柔軟に対応できる構造を持っています。
構造的な強み(要約)
  • CagriSema(カグリセマ):2025年末に申請された次世代薬。アミリンアナログとGLP-1の配合により、減量効果をさらに高め、他社の追随を引き離す「次の一手」が既に準備されています。
  • 心血管疾患への適応:単なる血糖降下や減量だけでなく、心血管イベントリスク低減のエビデンスを積み上げており、保険適用(Reimbursement)の強固な根拠として機能しています。
  • MASH(脂肪肝)への布石:Akero社の買収(2025年12月完了)により、肥満に伴う肝疾患(MASH)治療のパイプラインを強化。代謝疾患のバリューチェーンを全方位で押さえにかかっています。

⚙️ 第3章:課題と向き合い方(リスク管理)

長期的な死角として、「特許の崖」と「供給責任」が挙げられます。特に主力であるセマグルチドの特許切れを見据えた動きが重要です。

🤔 投資家が視るべき「2026年問題と中国市場」

中国におけるセマグルチドの特許に関しては、2025年末に最高人民法院が特許の有効性を支持する判決を下しました。これにより直近のジェネリック参入は回避されましたが、2026年の物質特許満了は避けられない事実です。

  • 特許クリフへの対応:単一成分(セマグルチド)への依存から、配合剤(CagriSema)や新技術(経口製剤)への移行を加速させ、特許切れ製品からのスムーズな患者移行(スイッチング)を狙っています。
  • 価格圧力:米国でのWegovy 7.2mg高用量版の申請など、付加価値の高い新製品を投入し続けることで、既存製品の薬価下落圧力を相殺する戦略をとっています。

🌿 第4章:未来像(5年・10年視点での意味)

ノボ・ノルディスクは、代謝疾患を「治す」だけでなく、合併症を「防ぐ」企業へと進化しようとしています。

パイプラインの深化:
2025年末にFDA申請を行った「CagriSema」は、肥満治療の新たなゴールドスタンダードになる可能性があります。また、買収したAkero社のEfruxiferminにより、これまで治療法が確立されていなかったMASH(代謝機能障害関連脂肪肝炎)領域でもリーダーシップを確立する可能性があります。

慢性疾患管理のOS化:
経口薬の普及は、早期段階からの治療介入を可能にします。これにより、糖尿病や肥満が引き起こす心疾患や腎疾患を未然に防ぐ「予防医療のプラットフォーマー」としての地位を、10年単位で盤石なものにするでしょう。

まとめ:この企業を一言で言うなら

ノボ・ノルディスクは、代謝という生体メカニズムの
「制御権」を握る、慢性疾患対策のインフラ企業。

注射から飲み薬への転換は、単なる利便性の向上ではなく、
市場規模の桁を変える構造的なパラダイムシフトです。

企業価値を「構造」から考える

グローバル企業の競争力は、成長率や市場規模だけでは測れません。
どの市場に組み込まれ、どの制度・ネットワークに支えられているか という構造が、 長期的な価値を左右します。
▶ 世界株 企業構造図鑑
制度・技術・ネットワーク・ノウハウといった観点から、 世界市場で成立している企業構造を整理しています。