【企業図鑑】Banco Santander Chile (BSAC)
「カフェ」で銀行を変えるデジタル・ジャイアント
チリ最大の資産規模を持つ銀行が挑む、物理とデジタルの融合実験
この企業に注目する理由
── 銀行の「支店コスト」を「生産性ハブ」に変える発明
世界中の銀行が支店閉鎖を進める中、サンタンデール・チリは「Work/Café」という独自モデルで支店の概念を書き換えました。コワーキングスペースとカフェ、銀行機能を融合させることで、顧客接点を維持しながら運営コストを最適化し、むしろ顧客満足度(NPS)とロイヤルティを高めることに成功しています。
チリという安定した市場で約17%の貸出シェアを持つ圧倒的な規模に加え、このユニークなチャネル戦略と、決済端末「Getnet」による中小企業(SME)市場の切り崩しが、長期的な競争優位の源泉となっています。
🔬 第1章:どんな企業なのか(輪郭と事業構造)
── チリ経済の血流を担う、最大の民間金融機関
Banco Santander Chileは、スペインのサンタンデール・グループ傘下にあるチリ最大の銀行(総資産・貸出金ベース)です。個人向けのリテールバンキングから、大企業向けの投資銀行業務(CIB)、資産運用(Wealth Management)までを網羅するユニバーサルバンクとして機能しています。
銀行の収益の柱は、貸出金利と調達金利の差(純金利収入:NII)と、サービス手数料です。特筆すべきは、チリ特有のインフレ連動単位「UF(Unidad de Fomento)」の影響を強く受ける構造です。
足元では、インフレ率の変動や中央銀行の金利政策の影響を受けつつも、2025年第3四半期時点でROE(自己資本利益率)は24.0%、効率性レシオ(経費率)は35.9% と、業界屈指の高収益・高効率体質を維持しています。
💡 第2章:なぜ特別なのか(競争優位の源泉)
単なる「大手銀行」という規模のメリット以上に、他行が容易に模倣できない構造的な強みを複数有しています。
🔍 深掘り:「Work/Café」によるチャネル革命
従来の銀行支店は「コストのかかる場所」でしたが、サンタンデールはこれを「コミュニティのハブ」に変えました。
- 顧客体験の差別化:無料のWi-Fi、コワーキングスペース、高品質なコーヒーを提供することで、銀行に行くことを「用事」から「体験」へと昇華させました。これにより、顧客でもない人々が足を運び、自然な形で口座開設や商談につながる導線を作っています。
- 効率性の向上:従来の支店よりも運営コストを抑えつつ、営業担当者の生産性を高めることに成功しています。このモデルは成功事例として、サンタンデール・グループの他の国々(イギリス、スペインなど)にも輸出されています。
- ブランドロイヤルティ:2024年も顧客推奨度(NPS)で業界1位を獲得しており、この物理的な接点の質がデジタル時代における信頼のアンカーとなっています。
- ✅ 安価な資金調達基盤:預金市場での高いシェア(特に要求払い預金)を持っており、これが低コストでの資金調達を可能にしています。競合他社よりも低いコストで資金を調達できることは、貸出競争において永続的な優位性となります。
- ✅ 決済プラットフォーム「Getnet」:独自の決済端末(POS)事業を急速に拡大し、加盟店の手数料収入を得ると同時に、中小企業のキャッシュフローデータを把握。これを融資判断に活用するエコシステムを構築しています。
- ✅ デジタルオンボーディング:「Life」や「Más Lucas」といったデジタル口座により、銀行口座を持たなかった層(アンバンクト層)を低コストで取り込み、将来的な優良顧客へと育成するパイプラインを持っています。
⚙️ 第3章:課題と向き合い方(外部環境とリスク)
チリという新興国市場ならではのボラティリティ(変動性)と、急速な技術変化への対応が主な課題です。
🤔 投資家が視るべき「崩れうるポイント」
- インフレと金利の感応度:同行の資産と負債はインフレ連動単位(UF)の影響を強く受けます。インフレ率の急激な低下は、短期的には純金利マージン(NIM)を圧迫する要因となりえます。これに対し、銀行はヘッジ戦略や資産負債管理(ALM)で変動を平準化しようと試みています。
- 規制環境の変化:「Fintech法(オープンファイナンス)」やカード手数料(インターチェンジフィー)の上限規制など、収益源を脅かす規制変更が進行中です。これに対し、自らFintech的な動き(Getnetやデジタル口座)を加速させることで、規制の波を乗り越えようとしています。
- 信用コストの上昇:経済環境の悪化に伴い、延滞率(NPLs)が上昇傾向にあります。銀行は引当金を積み増し、リスク管理モデルを厳格化することで対応していますが、景気後退が長引けば収益への圧力となります。
🌿 第4章:未来像(中期経営計画)
BSACが掲げる中期戦略「Chile First」は、単なる銀行業務の拡大ではなく、プラットフォーム化を目指しています。
顧客基盤の拡大とデジタル化:
2026年までに総顧客数を500万人以上に拡大する目標を掲げています。既に顧客の半数以上がデジタルチャネルを利用しており、物理的な支店網を維持しつつも、トランザクションの大部分を低コストなデジタルへ移行させることで、構造的な効率化(Cost to Income Ratioの低減)を進めています。
エコシステムの深化:
自動車ローン(Santander Consumer)や決済(Getnet)など、銀行口座以外の接点から顧客を囲い込み、クロスセルを行う戦略を強化しています。これにより、単なる「資金の貸し手」から、生活やビジネスの「オペレーティングシステム」としての地位を確立しようとしています。
まとめ:この企業を一言で言うなら
Banco Santander Chileは、
「カフェ」という物理的な引力と「アプリ」というデジタルの利便性を融合させ、
生活インフラとして深く根を張る「ハイブリッド・バンキングの完成形」。
チリ経済の成長と連動する安定性を持ちながら、
自らのビジネスモデルを破壊・再構築し続ける柔軟性が、長期的な生存力の証です。
企業価値を「構造」から考える
どの市場に組み込まれ、どの制度・ネットワークに支えられているか という構造が、 長期的な価値を左右します。
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