ユニ・チャーム(8113):「尊厳」を守る不織布の巨人

【企業図鑑】ユニ・チャーム (8113)
「尊厳」を守る不織布の巨人 ― 生物的な必然性に寄り添い、新興国の生活様式をデザインするインフラ企業

この企業に注目する理由

── 「ゆりかごから墓場まで」逃げ場のない需要を捕捉している

ユニ・チャームの事業は、人間(およびペット)が生物である限り避けられない「排泄」と「生理」という根源的な課題に基づいています。景気が悪くなっても、人はオムツの使用をやめることはできず、生理用品を買い控えることもできません。

特筆すべきは、単なる日用品メーカーではなく、アジアを中心とした新興国で「紙オムツや生理用品を使う」という新しい生活習慣そのものを創出し、定着させてきた点です。これにより、単なる製品シェアではなく「文化的なマインドシェア」を握ることに成功しており、海外売上高比率は60%を超え、いまや日本を代表するグローバル・ニッチトップの集合体となっています。

🔬 第1章:どんな企業なのか(輪郭と事業構造)

── 不織布・吸収体技術を核とした「3つの支柱」

ユニ・チャームの事業は、「不織布と吸収体」というコア技術を、人生の異なるステージに適用することで展開されています。

  • パーソナルケア(ベビー・フェミニン・ヘルスケア):
    「ムーニー(ベビー)」「ソフィ(生理用品)」「ライフリー(大人用オムツ)」を展開。特に大人用オムツは、高齢化が進む日本で培った「リハビリパンツ(自立支援)」の概念を武器に、アジア全域へ展開しています。
  • ペットケア:
    「グラン・デリ」「銀のスプーン」などのフードや, ペット用オムツを展開。ペットの家族化(Humanization)を追い風に、人間用以上の高収益体質を誇る成長ドライバーです。直近の第3四半期でも、コア営業利益は前年同期比29.3%増と驚異的な伸びを見せています。
NOLA & DOLA:
同社の哲学「NOLA & DOLA(Necessity of Life with Activities & Dreams of Life with Activities)」は、不快な排泄や生理の悩みから人々を解放し、夢を叶える時間を創出するというミッションです。これは単なる物販ではなく、「時間の質」を売るビジネスモデルであることを示しています。

💡 第2章:なぜ特別なのか(競争優位の源泉)

P&GやKimberly-Clarkといった巨大なグローバル競合がいる中で、ユニ・チャームがアジアで勝利し続ける理由は「ラストワンマイルの現地化」と「高付加価値化のサイクル」にあります。

🔍 深掘り:アジアでの「デファクト・スタンダード」化

ユニ・チャームは、市場が未成熟な段階から参入し、現地の所得水準に合わせた製品(例:インドネシアでのバラ売りオムツ)で普及させ、所得向上とともに高付加価値品へ移行させる「勝ちパターン」を持っています。

  • 先駆者利益:インドネシア、タイ、ベトナム、インドなど、人口ボーナス期の国々で高いシェアを獲得しており、これらの国では「オムツ=マミーポコ(ユニ・チャーム)」という認知が確立されています。
  • スイッチングコスト:肌に直接触れる製品のため、一度「漏れない・かぶれない」という信頼を得ると、消費者は安易に他社製品へ切り替えません。特にペットフードは「食いつき」の問題があるため、継続購入率が極めて高いストック型ビジネスとなります。
  • 高付加価値戦略:原材料高騰に対しても、単なる値上げではなく、「夜専用オムツ」「健康機能付きペットフード」など、新しい価値を付加することで価格転嫁を成功させています。
構造的な強み(要約)
  • ライフタイムバリューの最大化:一人の顧客に対し、赤ちゃんのオムツから始まり、女性の生理用品、ペットケア、そして老後の大人用オムツまで、生涯にわたって商品を供給し続けることができます。
  • 不況抵抗力:必需品であるため景気変動の影響を受けにくく、さらに先進国の少子化リスクを、新興国の人口増とペット市場の拡大、高齢化社会の需要増で相殺する「全方位型ポートフォリオ」を構築しています。

⚙️ 第3章:課題と向き合い方(外部環境への対応)

盤石に見えるユニ・チャームですが、原材料コストの変動と中国市場の競争激化という課題に直面しています。

🤔 投資家が視るべきリスクと対応

  • 原材料高騰(石油・パルプ):製品原価の多くをこれらが占めるため、市況の影響を受けやすい構造です。
    対策:圧倒的なブランド力を背景にした価格転嫁(値上げ)と、高付加価値品へのシフトで吸収しています。2025年12月期第3四半期も、コア営業利益率は前年同期比で改善(14.3%)しており、コスト対応力の高さが証明されています。
  • 中国の少子化と現地メーカーの台頭:中国では出生数減に加え、現地メーカーとの競争が激化しています。
    対策:価格競争に陥るマス層ではなく、高品質な「Made in Japan」品質を訴求したプレミアム層へシフトし、収益性を確保する戦略をとっています。

🌿 第4章:未来像(構造的成長の取り込み)

ユニ・チャームの未来は、「消費型」から「循環型」への転換と、未開拓市場への進出にあります。

使用済みオムツのリサイクル「RefF」:
オムツは一般ごみの大きな割合を占めます。同社は使用済みオムツからパルプを取り出し、再びオムツに戻す水平リサイクル技術を確立しています。これが社会実装されれば、廃棄物処理コストの削減と原材料調達の安定化を同時に達成し、環境規制が強まる未来において強力な参入障壁となります。

ネクスト・アジア(インド・アフリカ):
中国・東南アジアに続き、インドやアフリカ市場の開拓を進めています。インドでは既にベビーケアで高いシェアを獲得し黒字化しており、次の巨大な成長エンジンとして機能し始めています。

まとめ:この企業を一言で表すなら

ユニ・チャームは、人間の尊厳を守る「衛生インフラ」である。
赤ちゃんの笑顔から、高齢者の自立、ペットとの絆まで、
人生のあらゆる瞬間に「不織布」で寄り添い続ける生涯のパートナー。

人口動態の変化をリスクではなく「機会」に変えるポートフォリオを持ち、
新興国の生活水準向上とともに自動的に成長する構造を持っています。

企業価値を「構造」から考える

企業の強さは、売上や成長率だけで決まるものではありません。
どこに組み込まれ、何によって支えられているか という構造が、 長期的な価値を左右します。
▶ 日本株 企業構造図鑑
ビジネスモデル・制度・ノウハウなど、 企業の土台となる構造から読み解く企業分析をまとめています。