On Holding(ONON):「CloudTec®」が生む高収益DTCブランド

【企業図鑑】On Holding AG (ONON)
機能美とプレミアムの融合
「雲の上の走り」を工学的にデザインするスイスの異端児

この企業に注目する理由

── 「スポーツウェア」ではなく「パフォーマンス・ラグジュアリー」という新市場

NikeやAdidasが支配する成熟したスポーツシューズ市場において、Onは「技術(Technology)」を可視化することで風穴を開けました。特許技術「CloudTec®」による特徴的なソールは、一目でそれと分かる視認性を持ち、機能性をブランドの象徴へと昇華させています。

特筆すべきは、2025年第3四半期時点で60.6%という驚異的な粗利益率です。これは一般的なスポーツブランド(通常40-50%程度)を大きく上回り、ラグジュアリーブランドに近い収益構造を確立していることを示唆しています。

🔬 第1章:どんな企業なのか(輪郭と事業構造)

── DTC(直販)が牽引する高成長・高収益モデル

Onはスイス・チューリッヒに拠点を置くパフォーマンスブランドです。元プロアスリートとエンジニアによって設立され、「ランニングセンセーションの革新」を掲げています。事業はシューズが中心ですが、アパレルやアクセサリーへも急速に展開しています。

チャネル戦略の転換(2025年最新動向):
Onの成長エンジンは、卸売(Wholesale)からDTC(自社ECおよび直営店)へとシフトしています。2025年第3四半期において、DTCチャネルの売上成長率は49.8%に達し、卸売の成長率(23.2%)を大きく上回りました。
このDTC比率の高まりは、顧客データの直接的な取得を可能にするだけでなく、中間マージンを排除することで、前述の高い粗利益率を支える構造的な柱となっています。

💡 第2章:なぜ特別なのか(競争優位の源泉)

Onの競争優位は、スイス由来の「エンジニアリングへの執着」と、それを支える「コミュニティ主導のマーケティング」にあります。

🔍 深掘り:可視化されたテクノロジー「CloudTec®」

Onのシューズ最大の特徴である空洞のあるソール「CloudTec®」は、単なるデザインではありません。

  • 機能の視覚化:「着地の衝撃を吸収し、蹴り出しの反発に変える」という機能を、穴の開いたソールという形で誰の目にも明らかなデザインに落とし込みました。これにより、ロゴを見なくてもOnの製品だと認識させる強力なアイデンティティを確立しています。
  • イノベーションの継続:最新技術「LightSpray™」では、ロボットアームが単一のフィラメントを噴霧してアッパー(靴の甲部分)を形成する製造プロセスを開発しました。これにより、製造工程を数分に短縮し、廃棄物を最小限に抑えるという、製造業としての革新も進めています。
  • プレミアム・ポジショニング:安売りをせず、定価販売を維持する規律あるブランド管理が、高いブランド価値と利益率を支えています。
構造的な強み(要約)
  • アスリートとの共創:ロジャー・フェデラー氏が投資家としてだけでなく、製品開発にも深く関与。Zendaya(ゼンデイヤ)などの文化的アイコンとも提携し、スポーツとライフスタイルの境界を曖昧にする「カルチャー」を形成しています。
  • マルチチャネルの規律:卸売パートナーを厳選し、ブランドイメージを損なうような販路拡大を避けています。これにより、DTCへの誘導を促し、利益率の高い直販比率を高める好循環を生み出しています。

⚙️ 第3章:課題と向き合い方(リスクと環境変化)

急成長企業特有の「成長痛」とも言える課題、特に在庫管理やサプライチェーンの複雑化、そしてファッションサイクルの変化に対するリスクが存在します。

🤔 投資家が視るべき「崩れうるポイント」

長期的な競争力を維持するためには、以下のリスクへの対応が鍵となります。

  • 「流行」で終わるリスク:ファッション性の高さゆえに、トレンドが去った後の反動減が懸念されます。これに対しOnは、プロアスリート向けの「パフォーマンス(競技用)」製品の革新を止めないことで、単なるファッションブランドではないという信頼(Authenticity)を担保し続けています。
  • 在庫とサプライチェーン:過去には急激な需要増による供給不足や、逆に在庫過多に苦しんだ局面もありました。現在は倉庫の自動化や在庫フローの最適化を進め、在庫レベルを健全化させています。
  • 為替変動の影響:グローバル展開企業ゆえに、特に米ドル安などの為替変動が収益に影響を与えますが、価格決定力(プライシングパワー)を持つことで、ある程度の影響を吸収できる構造を持っています。

🌿 第4章:未来像(中期経営計画)

Onの視線は、ランニングシューズ市場の枠を超え、全身をコーディネートする「ライフスタイル・ブランド」への進化に向けられています。

アパレル事業の拡大:
シューズで培ったブランド力をテコに、アパレル(衣料品)分野への拡大を加速させています。全身をOnで揃える「Head-to-toe」の提案は、客単価(LTV)を飛躍的に高める可能性を秘めています。

サステナビリティの収益化:
サブスクリプション型サービス「Cyclon™」など、循環型経済(サーキュラーエコノミー)をビジネスモデルに組み込んでいます。環境意識の高い層への訴求力は、ブランドの長寿命化に寄与すると考えられます。

まとめ:この企業を一言で言うなら

Onは、スポーツ用品メーカーの皮を被った
「スイス・エンジニアリング企業」であり、足元のAppleである。

機能を可視化したデザインと、直販中心の高収益モデル。
この「理系的なアプローチ」によるブランド構築は、感性だけに頼る競合他社に対する強力な堀となります。

企業価値を「構造」から考える

グローバル企業の競争力は、成長率や市場規模だけでは測れません。
どの市場に組み込まれ、どの制度・ネットワークに支えられているか という構造が、 長期的な価値を左右します。
▶ 世界株 企業構造図鑑
制度・技術・ネットワーク・ノウハウといった観点から、 世界市場で成立している企業構造を整理しています。